研究課題/領域番号 |
24570101
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山城 考 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (50380126)
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キーワード | 種間交雑 / マイクロサテライト / シソ科植物 / ヤマハッカ属 / 花冠長 |
研究概要 |
アキチョウジからマイクロサテライト11遺伝子座を作成し、学術論文へ投稿を行った。本年度は開発したマイクロサテライトのうち9遺伝子座を使用し、愛媛県東温市の交雑集団の遺伝子型の解析を行った。解析はヤマハッカとアキチョウジの純粋集団を2つ、東温市の交雑集団、その交雑集団の果実から得られた実生を含めた193サンプルについて行った。ソフトウエアNewHybridを使用して交雑帯の遺伝子型クラスを解析した結果、交雑集団から得た103サンプル(開花個体56サンプル、実生個体47サンプル)は9個体が雑種2代、16個体がアキチョウジとの個体が戻し交雑、52個体がアキチョウジ、12個体がヤマハッカ、11個体が不明に区分された。雑種1代が検出されなかったことから、両親種間の交雑は稀である可能性が高い。また、アキチョウジへの戻し交雑集団は検出されたが、ヤマハッカとの戻し交雑は検出されなかった。このことから、交雑個体がアキチョウジと交配を起こしやすい傾向があることが明らかになった。 種間隔離の強さについて、解析を行うため予備的な交配実験を行った。実験にはアキチョウジ5個体、ヤマハッカ5個体を使用し、1個体から5花を使用した。いずれの交配でも、果実が形成されず、両種には強い生理的隔離が働いている可能性が示唆された。 讃岐山地の推定交雑集団はマイクロサテライトによる集団クラスタリング解析では雑種性が指示されなかった。そのため、讃岐山地の集団の系統的位置を明らかにすることを目的として、これまでの研究で得られているITS領域にETS領域を追加して解析を行った。解析を行った10集団32個体のうち、東温市の交雑個体ではアキチョウジのクローンからはヤマハッカに優占するシーケンスが得られたが、讃岐山地のサンプルは変異に乏しく、アキチョウジのリボタイプと単系統になることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東温市の推定交雑集団の遺伝的解析から、アキチョウジとの戻し交雑の頻度が高いことが明らかになった。このことは、アキチョウジの形質が維持されやすいという本研究の仮説を支持するものである。しかし、遺伝的構造は当初想定していた状況と異なっており、雑種1代の形成が少ないことが明らかになった。予備的な人工交配実験からも交配がうまく行かなかったことから、両種には強い隔離が存在している可能性がある。さらに、本研究で対象にしている讃岐山地の集団が交雑起源である可能性を示すデータを現段階では得ることができていない。本年度は同じシソ科植物のSalvia属で開発されている核遺伝子の塩基配列決定を10領域についてヤマハッカとアキチョウジのサンプルを使用してスクリーニングを行ったが、変異に乏しく、解析に使用できる状況では無かった。そのため、本年度はrRNAのITSとETS領域を使用したが、rRNAのように強調進化を起こす領域のみでは、過去の交雑を検出するのは、困難であると考えられる。現在、アルコール脱水素酵素のイントロンやArob領域などのコピー数の少ない核マーカーの塩基配列の決定を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で本研究の中心となる遺伝的構造および形態形質のデータはほぼ収集できている。しかし、不明に区分されている個体が11個体あることや、推定交雑個体の事後確率が平均70と低いことから、遺伝子座が不足している可能性が考えられる。そのため、可能な限りマイクロサテライト遺伝子座の追加開発を行う予定である。特に、以下の3点についてはデータが不十分であると考えられるため、今年度は特に重点的に行う予定である。1)送粉者の行動の量的評価、2)雑種1代の形成頻度、3)讃岐山地集団の遺伝子マーカーを使用した交雑性の解析。1)については、アキチョウジと交雑個体に関してはマルハナバチの訪花頻度に差が見られないが、ヤマハッカに関しては、花序が弱くマルハナバチが訪花すると花序が垂れてしまい、訪花を途中でやめることが観察できている。しかし、マルハナバチが訪花した際の送粉の有効性について定量的に評価ができていないので、1回訪花に対する花粉の持ち込み量などのデータを収集する予定である。送粉の有効性はすでに得られている交雑集団や実生の遺伝的構造をサポートする重要なデータになると考えられる。2)については、昨年度、アキチョウジとヤマハッカをそれぞれ20個体ずつ移植済みであるため、これらを使用して行う予定である。昨年度は、果実ができることが重要と考え、花粉の発芽の有無など顕微鏡レベルでの観察を行わなかった。しかし、今年度は当初の計画の通り、蛍光顕微鏡を使用した花粉の動向の観察を行い、雑種1代が少ない理由について考察を行うことを予定している。3)については、可能な限り核遺伝子を使用したネットワーク解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で行っている内容のうち、遺伝的構造と形態解析の部分については、昨年度内にまとめ学術論文を作成する予定であった。差額が生じたのは、データ解析が思うように進まず、期間内に論文を英文校閲に依頼できなかったために生じたものである。 英文校閲のための予算は次年度にも計上しているため、予算的に不足する可能性のある核遺伝子の塩基配列の決定のための試薬などの物品費として使用する予定である。
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