研究課題/領域番号 |
24570103
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
田邊 力 熊本大学, 教育学部, 教授 (30372220)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 種分化 / 生殖的隔離 / 体サイズ / ヤスデ |
研究概要 |
研究実施計画に沿って研究実績を述べる。 (1)分子系統に基づく体サイズ大型化を伴う多発的な種分化パターンの解明:(a)材料の採集:中国地方、四国、九州にて、対象ヤスデ類について複数の大型種(体長5~6cm)と小型種アマビコヤスデ(体長3.5~4cm)の計16集団の材料を採集した。(b)DNA塩基配列解析:解析のための設備を整え、採集で得た材料に所有材料を加えた20集団について連携研究者と共にmtDNAのCOI、COII領域の塩基配列を解析した。(c)分子系統推定:上記解析で得られた塩基配列データに基づいて連携研究者と共に分子系統推定を行った結果、中国地方、四国、九州において、広範囲に分布する小型種アマビコヤスデから、大型6種が独立に分化していることが示唆された。このように仮説「体サイズ大型化による多発的な種分化」を支持する結果が得られた。十分なデータに基づいているわけではないが、稀な種分化パターンを示唆するものとして、この成果には発見的な意義がある。 (2)同所的な小型種と大型種の間の機械的隔離の確認:分子系統解析機器の設置に時間を費やしたことから、交配実験による機械的隔離の確認は実施できなかったが、分子系統推定の結果からは、同所的な小型種と大型種の間には生殖的隔離が存在することが示唆された。 (3)体サイズ大型化要因の解明:生活史の延長とハエの寄生について検討した。生活史については過去データの整理に留まった。ハエについては、ハエ卵のついたヤスデを野外採集し、それを室内飼育することで、ハエの成虫を4個体得た。その結果、ハエには春寄生(イエバエ科)と秋寄生の2種がいることがわかった。ハエの分類と生活史データは蓄積されているものの、ハエ寄生と体サイズの関係については今後の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた3項目の一つ(1)「分子系統に基づく体サイズ大型化を伴う多発的な種分化パターンの解明」については、DNA塩基配解析のための機器類の整備とプロトコールの作成を終え、解析に入ることができた。十分なデータに基づいた解析にはいたらなかったが、本研究の仮説「体サイズ大型化による多発的な種分化」を支持する分子系統解析結果を得ることができた。(2)「同所的な小型種と大型種の間の機械的隔離の確認」については、予定していた交配実験を行うことができず、分子系統の解析結果からの検討にとどまった。最後の項目(3)「体サイズ大型化要因の解明」については、生活史の延長については十分な検討ができなかったが、ハエの寄生についてはハエの分類と生活史に関する基礎的なデータを得ることができた。総合的にみれば、これらの結果は本研究の基盤を形成するものであり、それに基づいて明確で効率的な研究計画の構築が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3項目に目的を絞ることで、より効率的に研究を推進する。 (1)大域的な種分化パターン:平成24年度の研究より、仮説「体サイズ大型化による多発的な種分化」を支持する分子系統解析結果が得られているが、未だ未調査地域も多い。それら地域(中国地方、四国、九州)において材料の採集を行い、大域的な種分化パターンを解明する。 (2)体サイズと生殖的隔離の関係:大域的な種分化パターンの解明に伴い、どのような体サイズの集団がどこに分布するかといった基礎情報が蓄積されてくる。この情報に基づき、同所的な大型種と小型種の間、同集団内の大型個体と小型個体の間、体サイズの異なる近隣集団間で交配実験を行い、体サイズと生殖的隔離の関係を明らかにする。 (3)体サイズ大型化要因:生活史の延長が体サイズの大型をもたらしているとする仮説を立て、これを野外調査等により実証する。調査方法の確立が当面の課題となる。定期的な幼体の野外採集等の方法を検討する。ハエの寄生とヤスデの体サイズの関係についても基礎データを蓄積する。
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次年度の研究費の使用計画 |
野外採集旅費(中国地方、九州を中心とした材料の採集)として25万円、野外採集に係わるレンタカー代として10万円を予定している。分子系統解析に関しては、DNA抽出からPCR産物精製までの試薬で25万円、塩基配列解析委託費で30万円を予定している。サンプルの保管、DNA抽出からPCR産物精製、野外採集に係わる消耗品費として10万円を予定している。
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