動物の繁殖行動は近縁種間・集団間ですら著しい多様性を示すが、多様化のメカニズムを詳細に検討する上で、その進化遺伝基盤の解明は欠かせない。本研究はゲノミックリソースが既に充実しており、繁殖システムの対照的な集団間分化を示す日本産イトヨ類のハリヨをモデル系として、これまでほとんど解明されていない魚類繁殖行動の集団間変異の遺伝基盤に切り込むものである。申請者の先行研究で明らかにされた繁殖行動変異のプロキシとしての性ホルモンシグナリングの集団間変異をターゲットとして、多角的なゲノム科学のアプローチを駆使することによって、同定が難しい自然集団の“行動”遺伝子を同定することを最終目標としている。 本研究の最終年度である平成26年度は、前年度までに実施したQTL解析、比較トランスクリプトーム解析、アリル特異的発現解析から有力な候補遺伝子であると考えられた性ステロイド合成酵素遺伝子のプロモーターアッセイを行った。その結果、比較集団間に認められた本遺伝子のプロモーター領域の配列変異は、in vitroにおいて、遺伝子発現量の変異を生じさせることが判明した。このことは、対象集団の繁殖行動形質の変異が、この遺伝子の調節領域のDNA配列変異によって創出されていることを強く示唆している。今後、原因DNA変異の完全な検証には、ゲノム編集を用いたin vivoでの解析が必要であるが、本研究は、性ホルモンに依存した雄繁殖戦略の多様化の遺伝基盤に世界で初めて成功したと言える。
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