研究課題/領域番号 |
24570106
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
神谷 充伸 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (00281139)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 汽水 / 塩濃度 / 種分化 / 生理特性 / 遺伝子流動 / 着生 / アポミクシス |
研究概要 |
全国の82地点で調査し、47地点からシオグサ属藻類を採集した。最も広く生育していた3種(海産ツヤナシシオグサとワタシオグサ、淡水産カモジシオグサ)に焦点を当て、各地点で2~5個体ずつを選別してリボソームITS領域を決定した。ツヤナシシオグサは、13のリボタイプのうち全国的に分布していたのは1つだけで、ヘテロ接合体も近隣のリボタイプ間の組み合わせしか検出されなかった。ワタシオグサでは、9つのリボタイプのうち6つのハプロタイプは全国的に分布しており、広域分散を繰り返している可能性が示唆された。2種のシオグサ類は分布域も生育環境も似ているが、ほとんどのツヤナシシオグサは岩礁や人工護岸上にしか出現しないのに対し、ワタシオグサはホンダワラ類などの大型海藻の上にも着生することがある。ホンダワラ類は流れ藻として各地に分散することが知られており、ワタシオグサはホンダワラ類とともに分布を広げた可能性がある。 一方、淡水産のカモジシオグサの場合、16のリボタイプが検出され、そのうちの4つのリボタイプは北海道から西日本まで幅広く分布していた。この16のリボタイプは4つのクレードに大別され、そのうちの2つのクレードに属する個体はすべてヘテロ接合体として検出された。ヘテロ接合体が複相世代であるならば、世代交代をせずにアポミクシスにより無性的に繁殖を繰り返している可能性がある。残りの2つのクレードでは、同所的に生育しているリボタイプ間でもヘテロ接合体は検出されなかったことから、有性生殖を行っていないか、すでにリボタイプ間で生殖的に隔離している可能性が示唆された。 今回解析した3種は系統的に近縁であるため、生育環境や生態特性の違いが集団構造の違いをもたらしたと考えられる。今後は、さらに解析する集団数や個体数を増やして、データの精度を高めるとともに、培養実験や生理実験など行い、上記の仮説を検証する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は初年度ということで、サンプリングを精力的に行い、全国82の調査地点のうち47地点からシオグサ類を採集することができた。DNA解析に用いるプライマーはすでに設計済みであり、予備的な調査によってシオグサ類の多型解析も行っていたため、ただちに解析を進めることができた。マイクロサテライトマーカーの開発を計画に盛り込んでいたが、リボソームITS領域でも十分な多型が検出されており、これ以上の解像度は必要なかったため実行しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まだ調査が終わっていない西日本を中心にサンプリングを行う。これまでリボソームITS領域を用いてDNA解析を行ってきたが、リボソーム遺伝子はタンデムリピートしており、単相でも個体内多型が生じる可能性があるため、正確に遺伝子型を判別できない可能性がある。そこで、今年度は新たなシングルコピー核遺伝子マーカーを開発し、解析済みの個体も含めて解析し直す予定である。 海産のツヤナシシオグサとワタシオグサの生態特性(他の大型海藻への着生)の違いが分散パターンに影響を及ぼしたという仮説を検証するために、ホンダワラ類に着生した両種の割合を比較するとともに、培養実験により遊走細胞の着生特性などを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東北・九州・沖縄地方でサンプリングを行い(40万円)、サンプリングの補助やサンプル処理等にアルバイトを雇用する(20万円)。プライマーの合成およびシークエンス解析は外注し(80万円)、DNA解析および培養に必要な試薬、消耗品等を購入する(60万円)。論文投稿に要する校正料、掲載料、別刷り代などを計上する(10万円)。
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