アオサ藻シオグサ類は、近縁な種同士が海水から陸水まで多様な水圏環境に適応している。そのため、塩濃度や空間スケールに代表される生育環境の違いが遺伝的多様性や分布パターンにどう影響するのか、種間で比較することが可能である。そこで本研究では、日本各地の海岸でツヤナシシオグサとワタシオグサを、河川・湖沼でカモジシオグサを採集し、rDNAのITS領域を基にリボタイプの多様性や分布パターンを調べた。 海産種のツヤナシシオグサとワタシオグサでは,リボタイプ数やヘテロ接合体の割合に大きな違いは見られなかったが、広域に分布するリボタイプの数や有効アレル数が異なっており、ワタシオグサにおいてより高頻度で集団間の遺伝子流動が起こっていることが示唆された。ワタシオグサの方が出現時期が長いという報告があるため,それが遺伝子流動の違いに関係している可能性がある。逆にツヤナシシオグサは日本海側と太平洋側の集団で遺伝的に大きな隔たりがあり、種内分化が進んでいることが明らかになった。一方、淡水産種のカモジシオグサは、リボタイプ数は海産種と同等だったが、ヘテロ接合体の割合はワタシオグサの1.8倍、ツヤナシシオグサの2倍であった。系統解析の結果、系統群Ⅰ(ヘテロ接合体の割合が7%)と系統群Ⅱ(ヘテロ接合体が100%)の2群が識別された。系統群Ⅰは淡水・汽水の河川や湖沼に広く分布していたのに対し、系統群Ⅱは淡水の河川にのみ生育していた。両系統群が同所的に生育していたのは調査した62地点中2地点のみだったことから、2つの系統群間で至適生育条件が異なっていることが示唆された。
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