研究概要 |
本研究は,従来広域分布するとされている蘚苔類について,広域に一面に分布する種群,隔離分布する種群,繁殖様式の異なる複数の種群について,その地理的分布域内における集団間分化の様相を明らかにすることで,陸上植物の中でも分散力に富む蘚苔類における分布様式と種分化の様相について解明することを目的とするものである.さらに,様々な要素が関与して成立したと考えられる日本西南部の蘚苔類相についても,種多様性が東アジア・東南アジアの蘚苔類相とどのような関わりをもつかを明らかにする.この観点から,各地に隔離的に分布する稀少種であるシダレウニゴケならびにコモチイトゴケ亜科(蘚類)を対象として研究を行い,以下のような成果を上げている. (1)シダレウニゴケ:国内8集団についてサンプルを収集し,形態的特徴の観察ならびに遺伝子の塩基配列(葉緑体DNAからrbcL, rps4, trnL-Fの各遺伝子座,ミトコンドリアDNAからnad5)について解析をおこなった.比較のため同属他種についても1~2集団ずつ同様の解析をおこなった.その結果,日本の集団は単一にはまとまらないこと,北限となる秩父地方石灰岩で見つかった集団は単一のクレードをつくり,種内分類群レベルで識別可能なことが判明した.また形態から類縁性が指摘されていた中米だけに分布するSymphyodoon imbricatifoliusとは特に近い関係にはないことがわかり,形態の類似は偶発的なものであることが示唆された. (2)コモチイトゴケ群については,特にタマコモチイトゴケ,ナガスジコモチイトゴケさらにヤクシマコモチイトゴケの3種について重点的なサンプリングを行い,これらについては葉緑体DNA(rbcL, rps4, trnL-F),ミトコンドリアDNA(nad5),さらに核DNA(ITS)について解析を行っている.Clastobryopsis属は中米に分布するAptychella属の異名になることが強く示唆され,これについては現在報告を作成中である.
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