研究実績の概要 |
1.ウニゴケ属Symphyodon(蘚類,ウニゴケ科)の分布と分化 従来日本に1種Symphyodon perrottetiiのみが分布するとされていたが,rbcL, trnL-F, rps4, ITS 1&2, rpl16塩基配列情報を詳細に検討すると,国内に少なくとも3つの系統が独自の分布域をもって存在していることが判明した.学名等については現在検討中である.(1) 北琉球(徳之島)~九州西岸~四国南岸~本州太平洋岸(八丈島まで)に分布するタイプ:基物から垂れ下がる軟弱な植物体を持つ.その他の形態形質(葉形,葉の細胞の形状,中肋の長さ)から,ウニゴケ属の別種S. erraticusに相当する.ベトナムで採集した本種ともよく一致する.(2) 宮崎県・三重県の内陸部に隔離的に分布するタイプ:植物体は軟弱ではなく,枝が良く張り出す.東南アジアに分布するS. perrottetiiに酷似するが,分子系統からは別のクラスターを形成する.(3) ウニゴケ属の中でもっとも高緯度に分布するタイプ:東京・埼玉の石灰岩に分布が限定される.分子系統の結果ならびに形態形質から,分布の北限で特殊な生育環境で分化を遂げた別種であることが判明. 2.オオタマコモチイトゴケ属(蘚類,コモチイトゴケ科)の分類と地理的分化 隔離的に分布する稀少種であるオオタマコモチイトゴケAptychella robustaならびにナガスジコモチイトゴケA. brevinervis,ならびに国外に分布する他種について,rbcL, trnL-F, rps4, nad5塩基配列情報と形態情報を用い,種間・集団間の系統関係を再構築した.その結果,これまで1種とされていた大山コモチイトゴケは少なくとも3種から,ナガスジコモチイトゴケは4種からなりたつことが判明した.記載については,準備中である.
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