研究実績の概要 |
本研究目的は1)アリ擬態グモ類の多様性がアリ類多様性を鋳型として創出されていることを,アリ類種多様性が異なる熱帯湿潤林や季節乾燥林で比較検証する,2)安定同位体比分析や供餌実験等でアリ擬態,非擬態クモ類の食生態を調べ,アリ類多様性を鋳型として創出された擬態グモ類多様性が生態系の安定化にどのように寄与しているのかを明らかにすることである.本研究実績として,1)H26年度は季節乾燥林(タイ国サケラート)と湿潤林(マレーシア国サラワク州ランビル)でサンプリングを実施.これらを合わせて,ランビルで1,018, サケラート302, ダナム596(マレーシア国サバ州)のサンプルを得た.2)各調査地での出現アリ種数とアリグモ種数には相関が検出され(ダナム林床104,12; ランビル林床112,12; ランビル中間層61,6;ランビル林冠74,9; サケラート林床61,5),アリの種多様性が高い程,アリ擬態クモ類の種多様性も高くなることを明らかにした.3)アリ擬態グモ類の体型,体長,体色の擬態類似度の解析から,同所に出現するアリとアリグモの最優占種間で高い類似度が検出されるなど,両者の間に種対種の擬態マッチングが見られることを明らかにした.4)安定同位体分析については,サケラート360サンプル,ランビル190サンプルの分析をH26年度に完了.アリに擬態形態が良く似ているアリグモ種ほど食物連鎖上で植食者傾向を,逆に擬態が曖昧なアリグモ種ほど肉食者傾向を示すこと.さらに,アリ擬態,非擬態クモ類960検体で供餌実験を行い,アリに擬態形態が似る程,獲物をジャンプして捕獲する能力が低下し,その結果,捕食成功率も低下することを明らかにした.6)これらの結果から,アリ擬態現象は多様性創出だけでなく,擬態者の喰い分け機構として生態系の安定化や多種共存にも寄与していることを初めて明らかにした.
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