研究課題/領域番号 |
24570110
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
太田 英利 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (10201972)
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研究分担者 |
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (80372035)
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キーワード | 外来個体群 / 交雑 / 遺伝浸透 / 個体群分類 / サテライトDNA / ミトコンドリアDNA / 分子系統地理 / 東アジア |
研究概要 |
本研究では昨年までの結果を受けて、日本在来と思われる集団(以下ニホンスッポン)と中国在来と思われる集団(チュウゴクスッポン)の実在性と、両者間での交雑の実態解明を目的にMSDNAとmtDNAの分析を進めた。 MSDNAの分析には、予備実験で増幅の確認された19遺伝子座を用いた。試料には昨年度までに収集した日本、韓国、中国、ロシア産の標本に今年度新たに国内で収集した標本を加えた計257点を用いた。mtDNAについてはダイレクトシーケンス法によりND4領域の塩基配列を決定し、ハプロタイプネットワークと分子系統樹を作成した。 MSDNAの分析では、19 座の情報をもとにAssignment testと主座標分析を行い、国内での上記2群の隔離・交雑状況を推定した。また特にANeCAを指標として分布の拡大様式も推定し、さらにその要因についても検討した。 MSDNA情報より示唆されたcluster数は2で(cluster-1、cluster-2とする)、いっぽうmtDNA ハプロタイプは昨年までの結果と同様、clade-A、clade-Bの二つに大きく分かれた。MSDNAの各clusterとmtDNAのcladeの間には、 全体的にclaster-1―clade-A、 claster-2―clade-B といった対応が見られた。これらは該当する標本の産地から、それぞれニホンスッポンとチュウゴクスッポンに相当するものと考えられた。このうちclade-Aには広範囲に見られるハプロタイプと局所的に見られるハプロタイプの2通りが存在し、このcladeが自発的に分布を拡大した可能性が示唆された。なお今回調べたサンプルの一部では、MSDNAのclusterとmtDNAのcladeとの間で不一致が見られ、両者の間で大規模な交雑が生じている可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は昨年度に引き続き、概ね順調に進んだ。特に昨年度より開始した核DNA情報の取得、解析についてはさらに大きく進展させることができ、マイクロサテライトにおいて19もの遺伝子座に関するデータをルーチンワークとして収集し、重要な核DNAの情報を定量的に解析することができた。この成果は、本年度に計画していた目標にほぼ到達できたと評価することができる。またミトコンドリアDNAのハプロタイプに関するデータ収集もさらに進展し、国内における日本在来と思われるハプロタイプから成るクレードの存在と、大陸・台湾から人為的に持ち込まれた外来性と思われるハプロタイプから成るクレードの存在も、それぞれ高い確度をもって検証・確認することができた。さらに以上の結果を総合することによって、当初計画していた国内における、在来個体群と外来個体群の間での交雑、特に外来個体群から在来個体群への遺伝浸透とそれに伴う遺伝的撹乱の存在を、一定の確度をもって示すことができたのは今後の保全施策にも大きく寄与する成果として、評価することができるであろう。ただその一方で、当初予定していたフィールドワーク、特に台湾、香港などでの追加資料の収集については、予期せぬ研究代表者の健康状態の悪化から実施できなかった。この分については次年度、あらためて国外も含めた野外での補足的なサンプル収集を実施し、目標通りの最終年度の成果に繋げてゆく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度はまず、昨年度における研究代表者の健康状態の予期せぬ悪化のためフィールドワークが実施できなかった国内や国外(特に台湾、香港)での補足サンプルの収集を実施し、得られたサンプルを試料として核DNAに関するマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型データ、およびミトコンドリアDNAの塩基配列データを追加し、これまでに集積してあるデータ群と合わせて総合的な解析を進める。このことによって日本内外におけるスッポン個体群の外来性、在来性や両者間における交雑にともなう在来個体群の遺伝的撹乱の実態について、確固たる結論を示すとともに、東アジア全体でのスッポンの個体群分類についても、これまでで最も優良となる仮説の提出に向けたとりまとめをすすめてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が年度途中で予期せず脳梗塞を発症して入院治療を受けることとなったため、当初の年次計画で予定していた、台湾や香港での旅費を使った標本の収集、組織試料の採取が実施できなかった。そのためその分が、次年度使用額となってしまった。 幸い研究代表者は、治療・経過観察のための入院とその後のリハビリテーションを経て後遺症もほとんどないまでに回復してきている。そこで標記の次年度使用額については、あらためて台湾、香港における補足的な標本の収集、DNA用組織サンプルの採取のための旅費として活用する計画である。
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