研究課題
光合成生物はその産物をグルカンの形で貯蔵するが、その構造はグリコーゲン、デンプン等のα-グルカンあるいは種々のβ-グルカンと多様性に富む。本研究ではその出現機構の解明を目的とし、2年目である本年度は、これまでの成果を受け以下の結果を得た。1. デンプン型→グリコーゲン型移行仮説の検証:原始紅藻Cyanidioschyzon(デンプン型)とCyanidium(グリコーゲン型)のグルカン合成関連酵素群の活性の比較から、デンプン型はイソアミラーゼによる枝揃えが活発に行われることにより形成される可能性が考えられた。そこで、イソアミラーゼの比較を行うためクローニングを試みたが、Cyanidiumでは縮重プライマーでの増幅がうまくいかなかった。一方、Cyanidioschyzonでは2つのイソアミラーゼ遺伝子のクローニングに成功し、相同組換えも可能なため現在破壊株の作製を進めている。2. ピレノイドデンプンに関する仮説(ピレノイドデンプンは、伸長酵素の一種GBSS により長鎖が作られるようになった藻類において形成されるようになったという仮説)の検証:ピレノイドを持たない緑藻Chloromonas2種でもGBSSを持つことが分かった。今後は、他のピレノイドを持たない分類群についても調べていく必要がある。3. ハプト植物のβ-グルカン合成酵素:βグルカン合成酵素候補遺伝子の発現を抑制することにより機能を検証することを目指して、先ず抑制法の検討を行った。抑制が検出しやすい系として、石灰化を指標に石灰化関連候補遺伝子の抑制を検討し、石灰化の抑制を示すことに成功した。次にこの方法をβ-グルカンに応用するために、細胞のβ-グルカン染色を試みたが、細胞の固定・抗体染色には成功したものの、β-グルカンの染色法は確立することができなかった。そのため、抑制効果の検証には定量が必要であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
1については、Cyanidiumではクローニングできていないものの、Cyanidioschyzonでは順調に進展している。Cyanidioschyzonでは破壊株が作製できるため、酵素のin vivoでの役割がすぐグルカン構造に反映されるという利点を用いることができる。2については、ChloromonasではGBSSの有無とピレノイドデンプンの有無に相関性はないことが示された。仮説の検証はできなかったが、GBSSの定量や他の分類群を調べる必要性が示された。3については、β-グルカン合成酵素の同定には至っていないものの、遺伝子抑制法の確立というこれからの実験の大きな基盤を作ることができた。また、可溶性のβ-グルカンを染色することはできなかったが、細胞の固定・抗体染色法も確立することができた。以上のことからおおむね順調に進展していると思われる。
1については、Cyanidioschyzonのイソアミラーゼ遺伝子2個の破壊株をそれぞれ作製し、デンプン構造の変化を調べる。グリコーゲン型に変化しなかった場合には、イソアミラーゼのダブルミュータントやブランチングエンザイムの破壊株も作製し、影響を調べる。イソアミラーゼのダブルミュータントにCyanidium等グリコーゲン型のイソアミラーゼを導入することも検討する。3については、我々の円石藻ESTデータベースから得られている酵母KRE6ホモログクローンの全長塩基配列を決定し、遺伝子発現抑制により機能を推定する。β-グルカン合成酵素であることが証明されたら、酵素の反応産物を解析することにより反応機構を解明していく。2については、他の細胞株が得られる予定が立たないことから保留とし、1と3を中心に行っていく。
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PLoS ONE
巻: 9 ページ: e87644
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Open Journal of Marine Science
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