研究課題/領域番号 |
24570116
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
今市 涼子 日本女子大学, 理学部, 教授 (60112752)
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研究分担者 |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究員 (20435738)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シダ植物 / 配偶体 / 菌根菌 / AM菌 / ハビタット / 着生 / 共生 |
研究概要 |
現生の維管束植物の80%以上が根にアーバスキュラー菌根菌(AM菌)を共生させていることは広く知られている。これに対して幅、長さとも1cm以下と小形で扁平な心臓形を示すシダ植物配偶体は菌根菌をもたないというのが常識とされてきた。これに対してシダ植物系統樹において基部近くに位置するリュウビンタイとゼンマイの配偶体では、多層の中肋部(クッション)に菌根菌が存在するという報告が古く1990年代初めになされたが、野生配偶体の形態による種同定が困難な状況にあって、配偶体と菌根菌との関係についてそれ以上の研究が進む事はなかった。しかし最近、遺伝子を用いたバーコーディング技術の発達によって野生配偶体の種同定が可能になり、配偶体と菌根菌の関係についての研究は新たな局面を迎えようとしている。本年度は日本各地でリュウビンタイとゼンマイの野生配偶体を採取し、rbcL遺伝子による分子同定から種を確認し、樹脂切片により内生菌の有無、内生菌の同定を行った。その結果、リュウビンタイでは96%(50/52個体)、ゼンマイでは95%(41/43個体)の割合でクッション部にAM菌が存在することが示された。この数値の高さは、両種の配偶体とAM菌との間には栄養の依存関係がある可能性が高いことを示している。また内生するAM菌は、(SSU)rDNA 領域を用いた分子同定からグロムス科のグロムスグループAに属するものばかりであり、他のAM菌は存在しなかった。さらに内生するAM菌の多様性は大変高く、同じ集団から採取された配偶体でも、個々の配偶体は1種類のグロムス菌をもち、2種類のグロムス菌をもつことはなかった。以上の内容を論文としてまとめ、Journal of Plant Research (2013年)に出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の「シダ植物配偶体の形態進化と菌共生関係の変遷」の初年度として、本年度はシダ植物系統樹の基部の系統群であるリュウビンタイ(リュウビンタイ科)とゼンマイ(ゼンマイ科)、2種について、95%以上の割合でAM菌が存在し、それらがグロムスグループAに属するものであることを明瞭に示すことができた。これは1990年代初期の論文で指摘されたリュウビンタイとゼンマイが菌根菌をもつ事を確認したと同時に、その菌根菌が他の維管束植物の根に広く存在しているAM菌であることから、小形のシダ植物配偶体、少なくとも系統樹で基部に属する種の配偶体は、いわゆるAM植物と考えてもよい事を示したことになる。しかもAM菌は心臓形配偶体の多層の中肋部(クッション部)にのみに局在することがわかった事から、我々の作業仮説である「シダ植物配偶体ではクッション部が薄くなるという進化傾向があり、これにともなって菌根菌の存在も減少し、菌根菌からの独立が起きた」の確証に向けて、次のステップとしていわゆる薄のうシダ類の野生配偶体の解析に進むことが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
シダ植物の分子系統樹において小葉類(ヒカゲノカズラ類)を除くシダ類(Ferns)は、ハナヤスリ類、マツバラン類、リュウビンタイ類、ゼンマイ類と、薄のうシダ類(Leptosporangiate ferns)から構成され、さらに薄のうシダ類はコアとなる薄のうシダ類(Core leptosporangiates)とそれ以外のものから構成される。本年度の研究によりリュウビンタイ、ゼンマイで95%以上の確率でAM菌をもつことが示されたため、次年度以降は薄のうシダ類を対象とする。まず薄のうシダ類のうち、Core leptosporangiatesを除いた分類群であるウラジロ科と、Core leptosporangates の基部に位置する木生シダ類(ヘゴ科、キジノオシダ科)の野生配偶体について、AM菌の有無、有りの場合は存在場所と菌の種類を明らかにする。次に、Core leptosporangiatesの中でもっとも派生的で大きな分類群であるPolypod fernsを対象とする。なお研究手法は本年度と同様で、日本各地で野生配偶体を採取、それらの分子同定で種を確認、クッション部の組織切片によってAM菌の有無を確認、そして菌が存在する場合はAM菌を分子同定する。 また配偶体は胞子発芽直後の原糸体からやや細長い楕円形をへて翼をもつ心臓形へと成長するが、そのどの段階で、どこからAM菌が進入するかを明らかにするため、ゼンマイとリュウビンタイの胞子を野外の土壁に作った実験区に播種し、一定期間ごとに成長した配偶体を採取し、AM菌の有無を組織切片から観察する。ゼンマイは日本女子大学キャンパス内に実験区をもうける。リュウビンタイはもともと熱帯で多くみられるものであるため日本国内ではうまく行かない事が予想されるので、インドネシアのチボダス植物園内での播種を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
ウラジロ科や木生シダ類の野生配偶体を採集するため、九州、関西、関東地方で数カ所で野外調査を行う。またリュウビンタイの胞子播種による成長過程に伴う菌根菌進入を解明するため、インドネシアのチボダス植物園にに実験区を設定する。これらの調査費として約40万円を計上する。 試料と菌の分子同定を行うための試薬としてDNA抽出キットやその他の薬品を購入する。これらを物品費として約40万円を計上する。 試料が数百個と多量になることが予想されるために、配偶体処理作業や分子同定を行う研究補助者を1名雇用する。その人件費として約60万円を計上する。
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