現生の維管束植物の90%以上が根にアーバスキュラー菌根菌(AM菌)を共生させていることは広く知られており、シダ植物の胞子体の根もAM菌をもつことがわかっている。一方、シダ植物の配偶体(前葉体)はサイズ1cm以下と小型であることからAM菌をもたないと考えられてきた。これに対して著者らは、最近、シダ植物の基部分類群の配偶体がAM菌を感染させており、しかもAM菌は配偶体の多層の中肋部(クッション層)に局在していることを明らかにした。また、種ごとの感染率の比較から、「菌感染率と配偶体のクッション層の厚さとの間に関係がある」という仮説を提出した。本研究では、本仮説を検証することを目的とし、野外で採集した配偶体をrbcL遺伝子を用いて種同定した後、切片観察からAM菌の有無を明らかにした。昨年度までの研究から、シダ植物の派生的分類群である広義ウラボシ類の地上生の心臓形配偶体も中肋部(クッション層)にAM菌をもつものがあること、ただし岩上着生の心臓形配偶体はクッション層が薄く菌感染がみられないことが示されていた。しかしこれらのデータは主に暖温帯や亜熱帯の日本産配偶体で得られたものであった。土壌の菌相が異なると予想される冷温帯でのデータが欠けていた。したがって本年度は、冷温帯に生育する配偶体を採取・解析することを目的とし、長野県松本における調査から4科11種の配偶体を採取し、遺伝子による種同定を行った後、切片観察を行い菌の有無を観察した。今年度は最終年度として、昨年度までの全データと今年度のデータを合わせ、計15科29種323個体のデータを用いて回帰分析(GLM)を行った。その結果、クッション層の厚さと菌感染率には有意な関係があることが示され(p<0.001)、上記仮説が支持される結果となった。
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