研究課題/領域番号 |
24570119
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
濱尾 章二 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (60360707)
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キーワード | 種分化 / 形質置換 / 種認知 / 生殖隔離 / さえずり |
研究概要 |
さえずりの似た鳥種が同所的に分布していると、さえずりは種の特徴が顕著なもの(厳密なさえずり)となり、近縁種が分布していないと変異の大きなもの(いい加減なさえずり)となること(仮説1)が考えられる。また、同種であっても厳密なさえずりといい加減なさえずりをもつ個体群間では、分布域の重複や個体の移出入が起きても同種と認識できないこと(仮説2)が考えられる。これらの仮説を確かめることは、種内のコミュニケーションに関わる行動形質が生殖隔離、さらには種分化を引き起こす可能性を探るうえで重要である。そこで、ヤマガラ・シジュウカラの2種の鳥類を材料に調査を行った。 今年度は南西諸島と九州本土において調査地(島)を増やし、さえずりの収集(録音)とさえずり構造の音響学的分析を行った。その結果、昨年度同様、近縁種が同所的に分布していると厳密なさえずりをする傾向がみられた。 また、同所的に分布する近縁種以外にもさえずり構造に影響する要因は考えられるため、その検討を行った。すなわち、調査地の植生構造による音声伝達環境の違いや、種内競争の激しさの違いが、さえずりの種内変異を生じさせるという代替仮説を検証するため、調査地の植生構造やヤマガラ・シジュウカラの生息密度の測定を行った。データ収集の途中であり十分な解析はできていないが、これらの代替仮説を支持する傾向はみられず、やはり、さえずりの種内変異には同所的に生息する近縁種の影響によって生じることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統計的解析を行うことができるだけのサンプル数を確保するため、また代替仮説をも検討してさえずりの種内変異を説明する仮説を検証するため、多くの調査地(島)で調査を行い、音声伝達環境と種内競争に関するデータを収集することがある程度できた。これは、ほぼ昨年度計画したとおりであった。
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今後の研究の推進方策 |
音声伝達環境と種内競争に関するデータ(植生構造と生息密度)をすべての調査地で収集し、近縁種の存在と共に、どのような要因がさえずりの地理的変異を生じさせているかを統計的解析から明らかにする。 また、種内のさえずりの変異が種認知に影響し、他地域の個体群のさえずりが同種のものと認知されないかどうかについて、多くの調査地(島の間)で音声再生実験を行い明らかにする。 さらに派生して、近縁種が生息しない地域の個体群はその近縁種をも他種と認知しない可能性を検討するための音声再生実験を試行的に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
有能な人材が得られず、分析補助の人件費を支出できなかったため。 研究協力者が使用する録音機材の購入を計画している。
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