南西諸島にはシジュウカラ、ヤマガラという近縁の2鳥種が生息するが、島によってはいずれか一方の種しか生息していない場合もある。他方の種が生息するか否かによってある種のさえずりが変化したり、種認知の能力が変化したりするのではないかを調査した。 まず、さえずりの地理的変異(方言)について、8つの島と本土でさえずりを録音し音響学的特性を分析した。また、さえずりの進化に影響する可能性がある生息地の植生、生息密度、近縁他種の密度を定量化し、さえずりとの関係を解析した。その結果、シジュウカラのさえずりにはヤマガラの生息の有無がそれに影響していた。すなわち、シジュウカラはヤマガラが棲んでいると、ヤマガラとは異なる低い周波数を用いていた。このことは劣位なシジュウカラがヤマガラに同種と誤認されハラスメントを受けるコストを避けていると理解できる。 また、同種異所個体群のさえずり(よその方言)は同種のものと認知されるかどうかを調べるために音声再生実験を行った。分析の結果、他方の種と共存している個体群では同種異所個体群のさえずりを同所のものと区別したが、共存しない個体群では同所異種個体群のさえずりを同所のものと区別しなかった。このことは、同所的に分布する近縁種が種の認知を厳密なものにさせていることを示唆する。 さらに最終年度は、5つの島と本土で異種に対する認知を調査した。音声再生実験の結果、他方の種が生息していない島の個体は他種のさえずりに対しても同種に対するのと同様の反応を示す場合があった。このことは、近縁種のさえずりを聞いていると種認知に関わるさえずりの鋳型が精密なものになること、逆に単独で生活していると同種と認知する音響学的特性の幅が広がることを示唆している。 これらの成果はさえずりと種認知メカニズムの進化、またその生殖隔離への影響について理解を進めるものである。
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