研究課題
生物は光をエネルギー源や環境情報として利用している。これらを担う光受容蛋白質内の色素群phytobilinは、ヘム分解産物ビリベルジン(BV)から、フェレドキシン依存性ビリン還元酵素(FDBR)による還元反応で合成される。シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803由来の酵素PcyAは、BVの二か所に部位特異的に、しかも一定の順序で2電子供与・2水素添加し、phytobilinの一つフィコシアノビリンを合成する。この特殊な還元反応の機構を「水素原子レベル」で解明するため、基質であるBVおよび反応中間体である18(1),18(2)-dihydrobiliverdin (18EtBV)それぞれを結合した二状態のPcyAの中性子結晶構造解析を行うのが本研究の目的であった。PcyAとBVとの複合体の中性子結晶構造解析を行い、1.95 Å分解能で構造を解明した。東海村のJ-PARCにある「茨城県生命物質構造解析装置; iBIX」の利用で、水素を使って反応する酵素の反応直前の水素原子の配置を同定した。その結果、基質であるビリベルジンに通常の状態と一つの水素が結合した状態の二つの状態があることが明らかになった。それと共に、近くにあるアミノ酸の一つであるアスパラギン酸も二つの状態で存在する。また、ビリベルジン近傍にある二つのヒスチジンの間にヒドロニウムイオン(H3O+)が存在することが分かった。これらは、水素原子が見えたからこその初めての発見である。さらに、ビリベルジン近傍の水の存在やグルタミン酸とビリベルジンとの相互作用様式など、X線結晶構造解析の結果とは異なる部位があった。これは、今まで、X線の還元力により酵素が反応したものを観測していた可能性を示唆しており、「水素原子が見えやすい」という以外に、エネルギーが低い中性子の優位性を示す結果である。
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J. Am. Chem. Soc.
巻: in press ページ: XXXX
10.1021/jacs.5b00645
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