研究課題
抗体とGPCRの安定化は創薬の更なる発展に必須である.申請者はスルホベタインが両者を安定化する予備的知見を得ていたので,安定化効果を詳細に解析し適用範囲と限界を見極めることを本研究全体の目的とした.H25年度に予定していた課題は,(1) 抗体の安定化,(2) nociceptin receptorの安定化, (3) Gq/m3の共結晶, (4) メカニズム解析,の4つである.(1) 抗体の安定化については,抗体医薬の輸送・投与などの各種過程で重大な問題の1つとなっている撹拌刺激による凝集体の形成を再現性良く促進・検出する系を確立した.また,シリコンオイルが抗体の凝集体の形成を促進する事も確認できた.更に,タンパク質はシアーストレスだけでは変性せず,界面吸着があるとシアーストレスが変性を促進することが知られている.タンパク質を安定化するスルホベタインは抗体の吸着を防止する事が明らかになった.(2) NDSBがm2-receptorとμ-opioid receptorとを安定化することを見出していたが,従来の結果は膜画分のreceptorについて得られたものだった.実用に近い可溶化状態での安定化について調べたところ,界面活性化剤で可溶化した状態でもNDSBは2つのレセプターを強力に安定化できることを明らかにした.(3) Giαとm4-receptor部分ペプチドとの複合体の作成に苦労していたが,Giαとm4-receptor部分ペプチドの両者ともキャリア・タンパク質との融合体とすることで,グアニンヌクレオチドが解離した生理的な複合体が得られることがわかった.また,m4-receptor部分ペプチドの中でGiαとの相互作用に重要であると考えられている残基を他のアミノ酸に置換すると,複合体が形成されないこともわかった.(4) スルホベタインはタンパク質を安定化するだけでなく,タンパク質のリフォールディングも促進する.NDSBはタンパク質の運動性を変化させるが,その効果がリフォールディング促進に寄与していることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
(1) 抗体の安定化: 現在,抗体医療で最も問題となっているのは,抗体の変性ではなく凝集である.凝集防止について研究する際のボトルネックは凝集体を効率良く・再現性良く作成することで,従来の方法では,(1) 凝集体の作成に数日もの長期間を要する,(2) 凝集体形成の再現性が低い,という問題があった.我々は1時間以内という短時間で効率良く,かつ,再現性良く凝集体を形成させることに成功した.また,その凝集体の形成を効率的に確認する2種類の方法も確立するとともに,凝集体形成への寄与が懸念されていたシリコンオイルの効果も再現性良く確認することができた.このボトルネックを解決できたので,抗体の凝集防止に役立つ安定化剤のスクリーニングが今後,効率的に行えると期待される.(2) レセプターの安定化: レセプターは界面活性化剤で可溶化すると,不安定になる.ドラッグデザインにおいては,レセプターを可溶化・精製・結晶化することが必須であるので,可溶化状態での安定化が重要である.NDSBが可溶化状態でも2種類のレセプターを強力に安定化したことから,NDSBはドラッグデザインに大いに役立つと期待される.(3) Giαとm4-receptor部分ペプチドの両者ともキャリア・タンパク質との融合体とすることで,グアニンヌクレオチドが解離した生理的な複合体が得られることがわかった.このサンプルについて結晶化スクリーニングすることによって,高い分解能を与える結晶が得られると期待される.また,相互作用の特異性を決定している残基の同定にもこの系は役立つ.(4) タンパク質のリフォールディングは創薬でも工業でも重要である.NDSBがリフォールディングを促進するメカニズムの一つが明らかとなったことは各種産業へ大いに貢献すると期待される.
(1) H25年度に確立した凝集体の形成手法と検出手法を用いて,スルホベタインが抗体の凝集を防止するかを確認する.また抗体の凝集を防止する試薬をスクリーニングする.(2) GPCRの結晶化条件により近い条件でNDSBがGPCRを安定するかを確認するとともに,各種安定化剤と効果を比較する.また,GPCRのリガンドスクリーニングの条件でもNDSBがGPCRを安定化し,より信頼性の高いスクリーニングができるかを検討する.(3) キャリア・タンパク質との融合体として作成したGiαとm4 receptor部分ペプチドとの複合体の共結晶を行う.また,NMRでも相互作用を解析する.(4) スルホベタインがタンパク質を安定化するメカニズムについて更に情報を得るために,各種分子間相互作用に及ぼす効果や吸着に及ぼす効果について種々の手法で解析する.
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J. Biosci. Bioeng.
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.jbiosc.2014.01.013
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