研究課題/領域番号 |
24570128
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
川上 勝 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (70452117)
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キーワード | 1分子測定 / タンパク質 / ポリペプチド / 原子間力顕微鏡 / 粘弾性 / 天然変性タンパク質 |
研究概要 |
天然変性タンパク質(ペプチド)は通常明確な構造を持たないとされるため、従来の分光法ではその構造の検出が難しく、その構造に関する知見は乏しい。NMRによる解析が有力とされるが、NMRでの測定条件ではタンパク質試料濃度が高いために凝集が起こることが問題であった。そこで凝集の起こり得ない、1分子を基板に固定した状態で、分子を掴み、その力学的挙動や、動的粘弾性を調べることで、天然変性タンパク質1分子の微細な動的構造を探ることが有力である。そのためには、まずは構造が単純であるモデル分子の測定結果を収集し、その結果を基にして、構造未知の分子の構造について議論することが必要である。構造が単純である分子(モデルペプチド)として、構造をもたない、あるいは規則的な構造をもつとされるポリリジン、ポリプロリン、ポリグリシン、ポリグルタミン酸をについて、測定を行うことにした。1分子を原子間力顕微鏡の探針部で首尾よく引っ張るためには、分子を基板へ部位特異的に化学固定することが重要である。本年度は、アミノカップリング反応を利用し、ペプチドのN末、C末部を基板へ化学固定する条件検討を行った。 またポリプロリンは、他のペプチド鎖と大きく異なり、非常に大きな弾性を持つ(硬い)。分子の硬さと、実際に引っ張る分子の長さの関係性を調べることで、ポリプロリンの単位長さあたりの硬さを決定することが出来、その硬さはβシートで構成される球状タンパク質と同等であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
25年度中にモデルペプチドの測定を終え、天然変性タンパク質の測定を行う予定であったが、モデルペプチドの測定条件の決定に時間を費やしたこと、また、ポリプロリンが特異的な力学特性を示したことから、この分子の詳細な測定を進めることに方針を変更し、ポリプロリンへリックスIとIIの構造について、その単位長さ当たりの固さを定量する実験を行い、これに時間を要したために、本題である天然変性タンパク質の測定に取り掛かることができなかった。 さらに、モデルペプチドとして選んだペプチドの固定化に関して、それぞれのアミノ酸の種類によって条件が異なり、その最適化に時間を要した。 さらに、1分子粘弾性測定のために必要な磁化カンチレバーの作成に関しても、顕微鏡に設置された電動ステージが故障したために作成ができていない(26年4月の異動後に修理完了済)。 また私的理由として、25年度末に所属していた大学での任期が終了するため、次年度以降も研究を続けるための就職活動に大きく時間を取られたことが大きな理由である。また時期ポジションが決定後も、研究室の移設に伴う作業の負担が大きく、25年度後半はほとんど研究が進めることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究室移設は26年4月に終了した。今後はポリプロリン以外のペプチドの力学測定、粘弾性測定を進める。粘弾性測定には、25年度で開始できなかった、磁気励振による方法を用いる。この方法は、力学測定用の柔らかいカンチレバー先端に、10マイクロメートル程度の磁気ビーズを接着し、これを磁場コイルからの外部磁場によって振動させ、その振幅と位相から、引っ張っている1分子の粘弾性情報を抽出する方法である。 モデルペプチドの測定を終え、構造と力学、粘弾性の関連性、相関についての解析を進め、次に天然変性タンパク質配列を持ったペプチド鎖、タンパク質の測定に取り掛かる。 天然変性タンパク質の測定のためには、凝集の起こらない低濃度で、分子を基板へ、化学修飾や、物理吸着を利用して固定する必要がある。固定に成功したら、実際に天然変性タンパク質1分子の力学、粘弾性測定を行い、力学、粘弾性の情報を収集する。 これらの情報をまとめ、先にえたモデルペプチドの力学、粘弾性と構造の相関の情報をもとに、構造未知の天然編成タンパク質の動的構造に関する情報を抽出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
測定を予定していたモデルペプチド購入費用を確保していたが、研究室の引っ越しに伴いその測定自体が困難な状態になった。試薬は冷暗所での保存が必要であり、先に購入して数か月放置しておくメリットがなかったため、モデルペプチドの購入を次年度へ持ち越すことになった。 使用が可能となり、また引っ越しが終了し、測定が可能となった時点で試薬を購入して研究を進める。
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