研究課題/領域番号 |
24570129
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
長谷川 一浩 福井大学, 医学部, 助教 (60324159)
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研究分担者 |
内木 宏延 福井大学, 医学部, 教授 (10227704)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 脳神経疾患 / 病理学 / アミロイド / アルツハイマー病 |
研究概要 |
難治性疾患であるアミロイド症を引きおこす各種アミロイド線維、特にアルツハイマー病βアミロイド(Aβ)およびβ2-ミクログロブリン(β2-m)アミロイド(透析アミロイド)の形成機構を解析した。 (a) Aβアミロイド線維形成に関与する各種生体環境条件について、その影響を評価した。(a-1) アミロイド線維の重合核形成を誘起する生体因子の探索。低濃度Aβペプチド溶液中で気液界面の影響を排除して、さらに各種蛋白質を攪拌子(担体)に固定して反応液中で攪拌する反応系を構築した。これにより、蛋白質によるアミロイド線維重合核形成の誘起を従来より生理的条件に近い状態で検出することが可能になった。また、アミロイド線維の形成が開始する時間をパラメーターとして、線維形成の促進を統計的に解析する手法を開発した。これを用いて、細胞外マトリクス蛋白質である、ラミニン、フィブロネクチンが核形成を促進することを示した。また、この際、アミロイド線維が担体の表面で形成されることを示した。そして、この反応系がβアミロイドが脳血管基底膜に蓄積する脳血管アミロイド症のモデルになりうることを示した。 (a-2)共存成分の核形成抑制・促進効果の判定。 脳脊髄液中の濃度に相当する低濃度アルブミンが、線維形成を抑制する効果があることを示した。 (a-3) Aβペプチドのオリゴマー等の前駆状態の解析。5μMのAβ1-40ペプチド溶液を気液界面を排除し、線維形成しない状態に保ったうえで、Aβペプチドのオリゴマー形成をゲル濾過法により解析した。低濃度のAβペプチドではオリゴマー形成が少ない可能性があり、検討を進める。 (b) アミロイド線維形成の試験管内開放反応系を構築する。β2-mアミロイドについて、線維を担体に固定し、そこに前駆体蛋白質(β2-m)を流す開放反応系を構築し、線維伸長因子の探索等を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(a) βアミロイドペプチドは試験管内で自ら重合し、生体内と同様の線維を形成する。脳内のAβペプチドはnMオーダーの低濃度であるが、従来一般的には、10-100 μM程度の濃度で試験管内重合反応を行っていた。気液界面が線維形成を強力に促進することを見出したため、これを除去する方法を開発した。更に適切な担体を選別して、これに蛋白質を固定化し、さらにこの固定化担体を用いて攪拌することで、5μM以下のAβ濃度でアミロイド線維の重合を行えるようにして、反応解析系を構築した。その結果、各種の細胞外マトリックス成分が、従来は重合を抑制すると報告されていたが、より生体条件に近い本反応系では、重合を促進することを見出した。一方、脳内のAβペプチド濃度はnMオーダーであり、本実験系より更に低濃度である。しかし、バッチ式反応系では、1 μM程度以下にはできないことが判明したため、開放型反応系の構築を予定している。 (b) β2-mアミロイドでは、前駆体蛋白質であるβ2-mは、天然状態の構造のままではアミロイド線維に組み込まれず、何らかの部分変性が必要であることが判明している。β2-mの変性中間体を形成する因子が線維の形成・伸長を促進する鍵になると考えられる。β2-mアミロイド線維形成の試験管内開放反応系を構築し、線維を伸ばす因子の解析をおこなった。新規因子を導入し、線維の伸長を計測することは可能になった。しかし、生体共存因子(アルブミンなど)との相互作用が複雑であり、現行の方式では反応機構の詳細な解析等の際には限界が生じると予想される。そこで、β2-mの変性中間体を直接検出する方法が必要と考えられる。このため、平成26年度に予定していた部分変性β2-mを検出するプローブの作成計画を平成25年度に先行して進めることとする。
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今後の研究の推進方策 |
(a) 脳内のAβペプチドはnMオーダーの低濃度であり、今回改良した試験管内反応系(5 μM)のものよりさらに低い。しかし現行のバッチ型反応系では更なる低濃度化は難しい。そこで、Aβモノマーを沈着局所へ持続的に供給する開放反応系を構築する。Aβの核形成を誘起する生体成分等を、現行の担体に固定する。そこに、1-100 nMオーダーのAβペプチド溶液を単独であるいは、共存蛋白質のアルブミン等と混合して、気液界面をつくらないようにした反応容器に持続的に供給し線維形成を試みる。線維形成の検出はアミロイド線維に特異的な蛍光を生じるチオフラビンT法等を用いて行う。 (b) β2-mアミロイドについては、β2-mの変性中間体を直接検出する方法を検討する。まず血液中等の生体条件に存在するβ2-mの立体構造等を解析する。さらに、部分変性β2-mを検出するプローブの作成を試みる。組み換えβ2-mにトリプトファンを導入して、遊離脂肪酸等による部分変性を行った際の蛍光変化等から構造変化を推定する。この構造変化を認識する因子・方法を作成しプローブとする。これを用いて透析患者の血清や培養細胞等における部分変性β2-mの挙動を解析することで、遊離脂肪酸等既に判明している部分変性因子の作用機序を検討し、また、新規の因子の探索に利用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
βアミロイドの試験管内開放反応系の構築:担体、Aβペプチド、共存蛋白質、反応装置や微量送液ポンプ等の購入に用いる。本来、当該研究費は平成24年度に使用する予定であったが、β2-mアミロイドの開放反応型試験管内実験系の検討を優先させたため、上記の購入を行わなかった。この為、次年度に使用する予定の研究費が生じたので、これを平成25年度に使用する予定である。 β2-mの変性中間体を直接検出する方法の開発:変異体β2-mを作成するための、PCRプライマー、遺伝子操作試薬、蛋白質発現の為の細胞培養試薬、蛋白質精製試薬・カラムなどの消耗品、装置。立体構造解析のための各種機器使用料や、測定器具(反応装置、光学測定セルなど)の購入。また、分析委託料金などに使用する。 また、当該研究結果の学会発表の旅費として、また、当該研究成果を論文として発表する際の掲載料として使用する。
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