難治性疾患であるアミロイド症を引きおこす各種アミロイド線維、特にアルツハイマー病βアミロイド(Aβ)およびβ2-ミクログロブリンアミロイド(透析アミロイド)の形成機構の検討を行ってきた。 Aβペプチドは試験管内で重合しβアミロイド線維を形成する。従来、10-100 μMのAβペプチド濃度で試験管内重合反応が行われている。本研究において、線維形成を強力に促進する気液界面を除去して5 μM の低濃度Aβペプチドを重合させるなど生理条件に可能な限り近づけた閉鎖型反応系を構築し、一部の細胞外マトリックス成分が核形成を促進することを示し、昨年度論文を発表した。しかし、脳脊髄液中でのAβペプチド濃度は1 nMオーダーである。そこで、本年度は更に低濃度のAβペプチド濃度で重合反応を行わせる系の構築を試みた。反応局所へAβペプチドを連続的に送液する開放型反応系を作成するために、反応容器、送液システム、定量検出系の組み合わせを検討し、試作型の反応系を構築した。この開放型反応系を用いると、最も低い場合で0.1 μMオーダーのAβペプチドの線維伸長反応を観察できる可能性がある。尚この反応系では、脳脊髄液中の生理濃度の血清アルブミンを吸着防止剤として添加している。Aβペプチドと血清アルブミンの結合平衡を考慮すると、遊離のAβペプチドのみが重合に関与している可能性が考えられるが、線維増加が観測できる最低濃度の時の遊離Aβペプチド濃度は、Aβペプチドが単独で線維伸長する際の最低濃度(実験値)に近いと推定される。このように、重合に用いるAβペプチド濃度を低下させることで、生理的条件での生体分子間の相互作用を直接評価できる可能性がある。アルツハイマー病や脳アミロイドアンギオパチーの治療法開発を最終目標として、生理条件に近いβアミロイド線維の重合反応系の開発を続ける予定である。
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