研究課題
細菌べん毛モーターの回転方向制御機構を明らかにするために、極低温電子顕微鏡による単粒子解析により回転方向の制御に関わるスイッチ複合体(Cリング)の構造解析を行う。特に回転方向変換時の構造変化を可視化するために左回転(CCW)または右回転(CW)に偏った回転を示す変異体のCリング付きフック基部体の高分解能構造解析と、回転反転スイッチであるリン酸化CheY (CheY-p)の結合したCリング付きフック基部体の構造解析を行い、それぞれの構造を比較することによって回転方向変換時の構造変化を可視化することを目的とする。本年度はこれまでに単粒子解析で決定したCCW型、並びにCW型基部体Cリング構造中のスイッチタンパク質FliGの配置情報を同定するために、回転子FliFとFliGの融合株と各種欠損融合株からの基部体の構造解析を行った。これらの変異体のうちFliF C末端とFliG N末端欠損融合株からの基部体の構造と昨年行ったFliGのN末端に蛍光蛋白質(フルオリン)を結合させた基部体の構造を比較することでCリングのインナーリングがFliGタンパク質の一部からなることが示された。並行してCheY-p結合型スイッチ複合体の構造解析を行うためにCheY-pと同等に作用することが知られている変異型CheY (D13K、Y106W)のC末端領域に蛍光タンパク質YFPを融合させたタンパク質の発現系の構築、並びに精製方法を確立した。このYFP融合型の変異体CheYを用いて、基部体との複合体をグルタルアルデヒドで固定することによってCheY-p結合型スイッチ複合体の再構成条件の検討を行い、CheY-p結合型スイッチ複合体を得ることができた。現在構造解析に向けて電子顕微鏡像を収集中である。
2: おおむね順調に進展している
CCW型、並びにCW型基部体Cリング構造の高分解能化のための構造解析は継続して行っているが現在のところ大きな進展はない。スイッチタンパク質FliGの位置を同定するための実験ではFliF-FliG欠損融合型の基部体構造でCリング中のインナーリングが完全に消失したことと昨年構造を決定したFliG-フルオリン融合型の基部体の構造で新たな付加密度がインナーリングのさらに内側に確認できたことからFliGの一部がインナーリングを形成し、そのN末端はインナーリングの内側領域にあることが示唆された。しかし現在の構造ではインナーリングの分解能が低く既存の結晶構造を当てはめるまでには至っていない。CheY-p結合型スイッチ複合体の再構成に関してはCheY-pと基部体との結合が弱く効率のよい複合体形成条件を決定できなかった。またCheY-Pの分子量も小さいく、複合体に結合する分子数も少ないことから電気泳動等による複合体の再構成確認が難しかった。CheY-p結合型スイッチ複合体検出の効率を上げるために抗体の作成と、変異型CheYに蛍光蛋白質YFPを融合したタンパク質を作成した。YFP融合型の変異体CheY を用いて複合体再構成条件の検討を行ったところ、マイルドな固定化方であるGraFixを試みたがこの方法では複合体は確認されなかった。そこで低濃度のグルタルアルデヒドで予め複合体を固定した後複合体を精製する方法を試したところ基部体を含む画分にYFP由来の蛍光を確認することができた。現在この方法で作成した複合体を用いて電子顕微鏡による画像の収集を開始した。
昨年度はCheY-p結合型スイッチ複合体の再構成条件を検討し、再現性の良い再構成条件を決めることができた。今年度はCheY-p結合型スイッチ複合体のデータ収集並びに三次元構造解析を進めていき、CリングへのCheY-pの結合数、CheY-p結合によるCリングの構造変化などについて考察する。この複合体の構造解析がうまく進まない場合は変異体CheY―YFP の代わりにリン酸化CheYと同等に基部体に作用するBeF3-化CheY-YFPを調製し、これを用いて複合体再構成と構造解析を行いCheY-p結合型スイッチ複合体の構造を決定する。これまで解析を進めてきたCCW型とCW型の三次元構造はさらなる分解能の向上を目指す。今後は解析に溶媒平滑化法を取り入れ構造解析を行い、各スチッチタンパク質の原子構造の当てはめが可能になるようにする。また他のラベル体(FliGのフルオリンラベル体、FliF-FliG各種欠損融合株)に関しては引き続きデータの収集と解析を継続し、基部体上のラベル位置の正確な特定特定を目指し原子構造当てはめの精度を上げる。得られた3つの状態(CCW型、CW型、CheY-p結合型)のスイッチ複合体の構造に各スイッチサブユニット間の相互作用様式と、単粒子像解析で得られたラベル化基部体の立体構造マッピングの結果に基づき、結晶構造を当てはめスイッチ複合体の疑似原子モデルを構築する。CheY-p結合型、CCWまたはCW型変異体それぞれのCリング構造を比較し、モーター回転制御機構のモデルを構築する。
本年度はCheY-p結合型スイッチ複合体の再構成条件の検討に時間がかかりデータ収集まで到達できなかった。そのため極低温顕微鏡で観察するための試料凍結用のエタンガスや電顕観察用グリッドの購入が予定より少なかったため該当金額に誤差が生じた。本年度にCheY-p結合型スイッチ複合体の再構成条件はほぼ確定出来たため来年度はCheY-p結合型スイッチ複合体の極低温電子顕微でのデータ収集と構造解析に集中する予定である。このため試料調製のために試薬とプラスチック製機器、極低温電子顕微鏡用の試料作製に用いるエタンとグリッドを購入する。また高分解能に向けた構造解析を進めていくためデータバックアップ用のハードディスクを購入する。また研究の成果を発表するために旅費と論文投稿費を申請する。
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すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports,
巻: 3 ページ: 3369
10.1038/srep03369
PLoS One
巻: 18 ページ: e64695
10.1371/journal.pone.0064695
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/02/result/