研究課題
基盤研究(C)
細菌のべん毛は高速回転(サルモネラ菌なら1分間に約2万回転)する運動器官であり、約30種類ものタンパク質で構成された超分子ナノマシンである。べん毛のロッドはべん毛基部体の中心軸を成し、べん毛の高速回転を支えるドライブシャフトとして機能する。FliCのみで構成されるフィラメントやFlgEのみで構成されるフックと異なり、FlgB、FlgC、FlgF、FlgGと4種類のタンパク質で構成されているロッドは、フックやフィラメントと異なった複雑ならせん構造体であることが予測されているが、詳細は明らかになっていない。本研究はべん毛の高性能潤滑回転機構の解明を目指して、ロッドの構造を結晶構造解析、低温電子顕微鏡法構造解析、生化学的解析から明らかにしようというものである。初年度はフックの根元に局在するFlgGの結晶化と構造解析を中心に行った。昨年度までに、FlgGのunfold領域を同定し、その部分を欠損させたFlgG(47-227)を発現、精製、結晶化スクリーニングし、結晶を得ていたが、回折データの質が悪く構造解析には至らなかった。今年度は良質な結晶を得るためにタンパク質精製法の改良と結晶化条件の最適化を最優先で行なった。その結果、精製法を見直してサンプルの純度を99.9%以上まで高め、その高純度のサンプルを使用して得られた単結晶からSPring-8 BL41での回折実験で2Å分解能の回折データを得ることに成功した。さらにセレノメチオニン置換体結晶の作製にも成功し、位相決定のための回折データを得ることもできた。得られた回折データからSAD法で初期位相を決定し分子モデルを構築することができた。現在、モデルの精密化を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度はFlgG(47-227)結晶を改良し、結晶構造解析のできる良質なネイティブ結晶の回折データを得ることを最重要課題とした。精製法の見直しと結晶化条件の再探索を精力的に行ったことが幸いして、初年度の目標であった良質な回折データを得ることに成功した。その後、セレメチオニン結晶の作製と回折データの収集、位相決定、モデルの構築も順調に進み、現在、モデルの精密化を行っている(近日中に構造を決定する)。結晶化が順調に進んだことで、当初の予定よりも数ヶ月程早く研究が進んでいる。
ロッドの高性能潤滑機構の解明を目指して、結晶構造を決定し、結晶構造を低温電子顕微鏡によるロッドの解析像に当てはめ、生体中のFlgGロッドの構造の解明を目指す。研究内容を論文にまとめ投稿する。来年度に予定していた研究課題「FlgB、FlgC、FlgFの局在位置を決定する」のに適した各タンパク質の欠損株を海外の研究者から譲り受けることができたので、この研究課題を前倒しして本年度から行う。各欠損株から基部体を精製し、その基部体の構成タンパク質を二次元電気泳動と電子顕微鏡観察から解析して、その欠損タンパク質の局在位置を明らかにする。
当研究のために必要な大型実験装置はほぼ揃っているので、研究費はタンパク質精製に必要な消耗品(ゲル濾過カラム、アフィニティーカラム、培地、試薬、界面活性剤、プラスチック器具、ガラス器具)、二次元電気に必要な消耗品(専用ゲル、試薬類)、電子顕微鏡観察のために必要な消耗品(グリッド、ラベル、抗体等)を購入する。作業の効率化を図るために、電動ピペット、ホットスターラー、撹拌器等の少額備品も購入する。成果発表のための論文投稿料にもあてる。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Acta Crystallographica Section F
巻: F69 ページ: 547-550
doi:10.1107/S1744309113008075
PLoS One
巻: 8 ページ: e52179
doi:10.1371/journal.pone.0052179.