研究課題/領域番号 |
24570135
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
海野 英昭 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10452872)
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キーワード | CEL-III / 膜孔形成毒素 / X線結晶構造解析 / 溶血性レクチン |
研究概要 |
病原菌の多くはターゲットとする細胞膜に穴をあける。もしくは毒素を細胞内に送り込むための膜孔形成毒素(Pore-Forming Toxin:PFT)を有している。PFT による膜孔形成メカニズムは病原菌の感染および毒性発現に決定的に重要であるが、未だ原子レベルでのメカニズムは明らかでない。本研究は、海産無脊椎動物グミ(C.echinata)由来PFTである溶血性レクチン CEL-IIIの膜孔形成複 合体の X 線結晶構造解析により, 病原性および毒性発現に極めて重要なPFTの膜孔形成メカニズムを原子レベルで明らかにする事を目的とする。 本年度は、昨年度に決定した「画鋲型」7量体膜孔形成型結晶構造の構造精密化を進め、最終的に分解能2.9オングストロームでの構造決定に成功した。得られた膜孔形成複合体中のプロトマー構造と、水溶性モノマー構造との比較により、膜孔形成に伴うドメイン3の移動およびαヘリックスからβシートへの大規模な2次構造変化を確認した。また、変異体解析からその重要性が示唆されているArg378の役割については、その膜孔形成複合体中の位置から、Arg378はpre-pore構造の形成に深く関わっている事が示唆された。 これらの知見から、pre-pore中間体構造を経由する、CEL-IIIの膜孔形成メカニズムのモデルを提唱した。これらの解析の知見は論文にまとめ、J. Biol. Chem. 誌に投稿しアクセプトされた。(Unno H, Goda S, and Hatakeyama T. J. Biol. Chem. 289(18), 12805-12812 (2014))
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画において、当年度はCEL-IIIの膜孔形成複合体構造の構造決定が目標であったが、その目標をクリアし、さらにモノマー構造との比較および変異体解析により膜孔形成メカニズムの解明を行った。得られた知見は論文としてまとめJBCに投稿し、アクセプトの返答を得た(J. Biol. Chem. in press)。これらの成果は、当初は来年度計画の内容であり、来年度計画の期待される成果をほぼ全て本年度でクリアしたと言える。本年度に得られた知見である、膜孔形成反応においてαヘリックスからβシートへの大規模な2次構造変化メカニズムについては、これまでに膜孔形成複合体の結晶構造解析からこれほど明確にそれを実証した例は無く、その点が雑誌のレビュアーおよび本研究の国内学会発表においても高く評価された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度明らかにした、CEL-IIIの膜孔形成メカニズムに関する知見は、水溶性モノマーの結晶構造および膜孔形成複合体の結晶構造から導かれたものである。その構造変化過程における中間体構造は、重要残基の変異体解析および結晶構造の特徴からある程度推測できたが、本研究成果において中間体構造自体は「推定」モデルの導出に留まっており、その中間体構造の構造解析を行う事で、膜孔形成メカニズムのより詳細な解明に繋がると考えている。中間体構造の構造解析の為には、安定した中間体構造を形成していると考えられる変異体を用いた、変異体の結晶構造解析、高速AFM観察による構造変化過程の直接観察、および計算機シミュレーション等の解析手法が有効であると考えている。そこで26年度はそれらの手法を用いた中間体構造解析に取り組み、CEL-IIIによる膜孔形成メカニズムのより詳細な解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画である試薬等の消耗品支出が、予定より少ない支出で目的の研究成果を得る事が出来た。また当該年度は、データの取りまとめ、データ解析、および論文執筆に多くの労力を費やする事となり、その分消耗品の使用額が抑えられる結果となった。次年度では当初計画からより発展させた計画とし、そのための来年度の必要費用として次年度に繰り越す計画とした。 CEL-III膜孔形成中間体構造解析を進めるため、研究費は主にCEL-III変異体作成、タンパク質発現・精製・結晶化に関する機器、消耗品の購入に充てる。また、それと並行して高速AFM観察および計算機シミュレーションを行うために必要な消耗品および計算機等の購入に充てる。また、放射光施設への旅費、実験生物材料(グミ)入手に関連する費用、学会発表のための旅費としても使用する予定である。
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