研究課題
基盤研究(C)
相同組換えは、DNAの二本鎖切断によって開始され、切断部分と相同な配列をゲノム上で検索する。ゲノムはヒストンを始めとするクロマチンを構成するタンパク質によって凝集されているが、その中から、どのようにして相同な塩基配列を見つけ出すのかは不明である。真核生物では、Rad52が相同な配列を検索するタンパク質の一つである。Rad52には、種間で高度に保存されたN末端側領域と、あまり保存されていないC末端側領域の2つの領域が存在する。N末端側半分の領域については、これまで結晶構造が明らかになっており、相同な一本鎖DNAと二本鎖DNAの間で起こる相同的対合反応を触媒するドメインであることが分かっている。一方、C末端側半分については、Rad51との相互作用部位が明らかにされているが、その他の機能についてはほとんど明らかにされていない。クロマチン上で相同検索を行うためには、クロマチンの構成単位であるヌクレオソームとの相互作用が重要であることが考えられる。そこで、ヌクレオソームとRad52との相互作用を検討するために、全長の酵母Rad52に加え、相同的対合反応を触媒するN末端側半分のドメインと、機能が不明瞭であるC末端側半分の領域の3種を、リコンビナントタンパク質として大量調製する系を確立した。また並行して、ヒトRad52タンパク質についても同様に、全長、N末端側、およびC末端側ドメインの3種を、リコンビナントタンパク質として大量調製する系を確立した。ヒトRad52タンパク質は、HeLa細胞の核から調製したヌクレオソームと相互作用することが分かった。さらに、ヒストンH2A-H2B二量体およびヒストンH3-H4四量体との相互作用を調べたところ、全長のRad52はどちらのヒストン複合体にも結合することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
クロマチン上での相同検索の分子機構を明らかにするためには、相同検索を行うタンパク質とクロマチンとの詳細な相互作用を明らかにする必要がある。本研究では、Rad52がヌクレオソームおよびヒストンと直接相互作用することを初めて明らかにした。このことから、Rad52がヌクレオソーム上で相同検索を行う可能性が考えられた。そして、Rad52とヌクレオソーム、またはヒストンとの複合体の立体構造解析は、相同検索のメカニズムを理解する上で、重要であることが考えられた。
Rad52が触媒するクロマチン上での相同的対合反応の分子機構を理解するために、Rad52・一本鎖DNA・ヌクレオソームの三者複合体を再構成し、その立体構造の情報を得る。まずRad52・一本鎖DNA複合体と、ヌクレオソームとの三者複合体を形成させ、複合体を精製した後に、ハンギングドロップ蒸気拡散法により結晶化を行う。単結晶が得られた場合、SPring-8高輝度放射光施設(兵庫県)にてX線回折データを収集し、三者複合体の構造解析を行う。結晶化が困難な場合、または得られた結晶で良質なX線回折データが得られなかった場合は、ケミカルクロスリンクを導入する部位を検討し、良質な結晶またはX線回折データが得られる三者複合体の調製を試みる。それでも良質な結晶やデータが得られない場合は、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡による低分解能の解析を行い、三者複合体の立体構造情報を得る。また、ヌクレオソームとの三者複合体の構造解析と並行して、Rad52・一本鎖DNA・二本鎖DNAの三者複合体のX線結晶構造解析も行う。結晶化には、複合体中のDNA配列が影響すると考えられるため、さまざまな配列の単鎖もしくは二重鎖のオリゴDNAを用いてゲルろ過およびゲルシフト分析を行い、Rad52と高い結合親和性を有するDNA配列を検討する。得られたDNA配列を用いて三者複合体の精製および結晶化を行う。単結晶が得られた場合、ヌクレオソームとの三者複合体と同様に、SPring-8高輝度放射光施設にてX線回折データを収集し、構造解析を行う。そして、得られた構造と、既に明らかにされているヌクレオソーム構造を用い、構造のモデリングやMD計算から相同検索の分子機構を推論する。以上の解析を、Rad51およびDmc1についても試みる。
タンパク質精製用カラム充填剤(内訳は、Ni-NTA agarose、GS4B、Q Sepharose、SP Sepharose、Hydroxyapatite、Affi-gel Blue、Heparin Sepharose)、生化学試薬および分子生物学用試薬・キット類(内訳は、薬品類、電気泳動用品類、プロテアーゼ類、タンパク質濃縮カートリッジ、透析膜、DNA精製キット類、タンパク質発現用ベクター類、DNAシークエンシング試薬類、酵素類など)、DNA合成とシークエンシング費(内訳は、発現系、変異体作製、シークエンス用プライマー、生化学・物理化学解析用のHPLC精製DNA)、プラスチック・ガラス製品、タンパク質結晶化試薬・消耗品(内訳は、結晶化用試薬、キット類、セレノメチオニン、結晶化用プレート)、国内旅費、海外旅費を計上する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Acta Crystallogr Sect F Struct Biol Cryst Commun.
巻: 69 ページ: 438-440
10.1107/S174430911300554X
Protein Expr Purif.
巻: 88 ページ: 207-213
10.1016/j.pep.2013.01.006
Curr Opin Struct Biol.
巻: 23 ページ: 109-115
10.1016/j.sbi.2012.10.009
EMBO J.
巻: 31 ページ: 3524-3536
10.1038/emboj.2012.197