研究課題
相同組換えは,ヒストンを始めとするクロマチン構成因子によって凝集されたDNA上で起こる.相同組換えを触媒するタンパク質はDNAの二本鎖切断部位に集積し,そこの塩基配列と相同な部分を相同染色体または姉妹染色分体の中から見つけ出す.真核生物では,Rad51が中心となって相同な塩基配列の検索を行うが,その分子機構は未解明である.これまでの研究で,Rad51はヌクレオソームアレイ上で効率よく相同組換えを触媒できないが,Rad54などのクロマチンリモデリング因子が共存すると,組換え反応が促進されることが示されている.前年度までの研究において研究代表者らは,Rad51の相互作用因子であるヒトRad52がヒストンと直接相互作用することを見いだした.そこで本年度はRad51・ssDNA複合体がRad52との相互作用を介して,ヌクレオソーム上で相同な塩基配列を検索する可能性を調べるために,出芽酵母のRad51とRad52との相互作用について詳細な生化学的・構造生物学的解析を行った.Rad52のC末端側半分は天然変性領域が多く存在し,これまでの研究から,Rad52のC末端側半分にRPAおよびRad51との相互作用部位が存在することが明らかにされている.研究代表者らは,天然変性領域を含むRad52のC末端側半分をリコンビナントタンパク質として大量調製することに成功した.このRad52断片(Rad52C)とRad51との相互作用を解析した結果,Rad52CはRad51の多量体構造を解体し,Rad51とヘテロダイマーを形成することが明らかになった.さらに,Rad51との結合に重要なアミノ酸残基を,Rad52のC末端側領域の中から新たに見つけた.このアミノ酸残基(F349)をアラニンに置換したRad52 F349A点変異体は,Rad51の多量体を解体できず,Rad51依存的な鎖交換反応を促進できないことが分かった.
2: おおむね順調に進展している
クロマチン上での相同検索メカニズムを明らかにするためには,相同検索を行うRad51やRad52と,クロマチンの基本単位であるヌクレオソームとの詳細な相互作用を解析する必要がある.本研究では,相同検索を行うRad51と,それを一本鎖DNAへ誘導するRad52が形成する複合体の実態を初めて明らかにした.Rad51およびRad52はどちらも単独では巨大な多量体構造を形成するが,Rad52がRad51を一本鎖DNA上へ誘導する際にRad51の多量体を解体し,ヘテロ二量体を形成する.この複合体は大量調製が可能であり,今後行う予定であるヌクレオソームとの相互作用解析や結晶構造解析などに適していることが予想される.このRad51・Rad52複合体を用いることで,Rad51およびRad52がそれぞれ一分子単位でヌクレオソームとどのように相互作用し,ヌクレオソーム上で相同検索を行うのか手がかりが得られる可能性がある.
Rad51およびRad52がクロマチン上で触媒する相同的対合反応の分子機構を理解するために,平成25年度で解析したRad51・Rad52複合体,一本鎖DNA,およびヌクレオソームの三者の相互作用を生化学的に解析する.ヌクレオソームについては,出芽酵母のヒストンタンパク質(H3,H4,H2A,H2B)をリコンビナントタンパク質として大量調製し,Widom 601 DNA sequence上にヌクレオソームを再構成する.まず,三者の相互作用をゲルろ過法により解析する.同定された複合体については,それを構成する因子とその分子数を明らかにするために,超遠心分析法により正確な分子量を求める.次に,複合体の大量調製を行い,その立体構造の情報をX線小角散乱,電子顕微鏡解析,X線結晶構造解析などの手法より得る.結晶構造が得られた場合は,既に明らかにされているヌクレオソーム構造と比較し,相同検索の分子機構を推論する.さらに,この分子機構を生化学的および細胞生物学的な実験により多角的に検証する.
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