研究課題/領域番号 |
24570140
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
林 秀行 大阪医科大学, 医学部, 教授 (00183913)
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研究分担者 |
村川 武志 大阪医科大学, 医学部, 助教 (90445990)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酵素反応機構 / 反応特異性 / 補酵素 / ピリドキサールリン酸 / 反応速度論 / X線結晶解析 / 量子化学計算 |
研究概要 |
ピリドキサール酵素の中で最も複雑な反応機構を有するトレオニン合成酵素(TS)が高度な反応特異性を有する機構を解明するため,最も重要な反応の分岐点であるL-α-アミノクロトン酸-PLPシッフ塩基(AC)からの正反応と副反応の詳細な解析を行った。生成物のL-トレオニンからACを経て副反応性生物であるα-ケト酪酸(KB)が生成する過程のストップトフロー分光法による解析を広pH領域で行ったところ,ACへの水分子の付加の過程がpH依存性を示すことが判明し,この段階における生成物リン酸イオンによる生成物支援触媒を支持する結果が得られた。 この過程の各中間体の構造を探る目的で,TSの結晶にL-トレオニンを加えて経時的に凍結して構造解析を行う,「速度論的X線結晶解析」を試みた。その結果顕微分光法により,中間体の蓄積とその経時的な変化を確認することができた。 さらに,この正反応と副反応について量子力学/分子力学混合法(QM/MM法)を用いたリアリステックな酵素・基質複合体モデルで高精度理論解析を行った。中間体のプロトン化状態や水素結合ネットワークの組換えの考えられる全ての可能性について網羅的な理論探索を行い,最も可能性の高い反応経路を決定した。その結果,エネルギープロファイルとUV-Visスペクトルを完全に再現したのみならず,実験的に求められなかったシッフ塩基交換過程の中間体と遷移状態を求める事に成功した。さらに、硫酸イオン下で誘導される副生成物反応経路についても理論的に明らかにしたことで,反応分岐点であるAC以降の正反応と副反応について理論的に考えられる詳細な機構を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リン酸イオンによる生成物支援触媒の機構については酸塩基触媒としての働きが考えられる。そのため,広pH領域における解析,とりわけ,素過程にまで分解してそれぞれのpH依存性を明らかにすることができれば理想的であるので,広pH領域における遷移相速度論的解析が望まれていた。本年度の研究ではそれに成功し,リン酸イオンによる酸塩基触媒を裏付ける結果が得られた。この点において目標の水準に到達している。 また,理論的解析に関しては順調に推移し,実験的に求められなかったいくつかの遷移状態の解析まで行うことができ,この点に関しては目標以上の成果を得ている。 一方,速度論的X線結晶解析については,顕微分光レベルの中間体の確認にとどまっており,現在,解析に耐えうる回折像は得られていない。この点は目標に到達しているとは言えない。 以上を総合し,到達度に高低があるが,平均して概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,反応前半部分(AC生成までの)に対する解析を開始する。速度論的解析と理論的解析は今までの実績を考慮すると,順調に推移することが期待される。一方,速度論的X線結晶解析についてはまだ反応後半部分についての解析が終了していないが,この困難さは,生成物のL-トレオニンがTSとの結合力が極めて弱く,中間体のoccupancyが低いことが主要な原因であると考えられる。したがって,生成物のL-トレオニンとの反応に拘泥することなく,TSとの結合力の強い基質O-ホスホ-L-ホモセリンとの反応についての速度論的X線結晶解析を開始することに意義があるという認識を持ちつつある。 したがって,次年度は当初の計画通り,反応前半部分に関する速度論的解析,理論的解析,結晶構造解析を行うことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度については節約に努めた結果,13,190円が未使用額として残った。これを次年度の支給額と合わせ,当初の計画通りに研究費を使用する。昨年は前倒し請求により分光光度計を導入し,機器に関しては体制が整ったので,本年は消耗品ならびに昨年の研究実績の発表(FEBS 2013)のための旅費として使用する。
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