平成26年度の研究により,トレオニン合成酵素(TS)と2-アミノホスホノペンタン酸(AP5)の反応の解析により,TS触媒反応の前半過程の解析の端緒が開かれた。このことに基づき,平成27年度はTSとAP5の反応の広域pHにおける解析を行った。その結果,pH依存性はTSとAP5の結合の段階のみに影響すること,すなわち,AP5のアミノ基が非プロトン化し,カルボキシ基が解離した形がTSに結合し,TS-AP5複合体が形成された後は,活性部位のプロトン化状態がpH 6~8の領域で変化がないことが判明した。これに加えて,TSとL-トレオニンの反応も広域pHで解析したところ,TSとAP5の反応と同様に,TSとL-トレオニンの結合段階のみがpH依存性を示し,やはりL-トレオニンのアミノ基が非プロトン化し,カルボキシ基が解離した形がTSに結合し,TS-L-トレオニン複合体においては活性部位のプロトン化状態がpH 6~8の領域で変化がないことが判明した。以上のことより,TSの反応の全体を通して,基質OPHSのリン酸基,およびリン酸基の脱離によって生成し,活性部位にとどまっているリン酸イオンと周囲の残基の,イオン的相互作用を中心とする強い相互作用が活性部位の反応に関わる残基,特にLys61のアミノ基,のプロトン化状態を一定に保ち,pHに依存しない触媒反応を可能としていることが明らかとなった。活性部位のプロトン化状態の多様性は種々の副反応が生じる原因となり,プロトン化状態を一定に保つことによって副反応の進行を抑制しているという機構が明らかとなった。
|