研究課題/領域番号 |
24570144
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山崎 和彦 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (00358243)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 転写因子 / 核酸創薬 / がん / タンパク質核酸相互作用 |
研究概要 |
本研究は、転写因子SATB1のタンパク質結合ドメインや複数のDNAドメインを対象とし、結合し、機能の阻害を行う核酸分子の取得を行うことを目的としている。本年度は、標的ドメインの調製を行い、in vitro selectionによって結合核酸を選別し、次世代シークエンサーを用いた配列情報を取得までを行う予定とした。 (1) 標的分子の調製とビーズへの固定化:SATB1のPDZドメインおよびCUTr1ドメイン、ホメオドメイン、CUTr 1-ホメオドメイン融合体を大腸菌の発現系により、調製した。His-tagを利用した精製を行うが、tagを残したものと切断したもの両方を取得した。前者をHis-tagを介してダイナビーズに固定化した。 (2) 核酸ライブラリーの調製:配列の一部をランダム化したDNAを化学合成によって調製した。二重鎖DNAのライブラリーは、一本鎖のDNAライブラリーからKlenow反応を行って調製した。 (3) 標的分子固定化ビーズへの結合と解離:(1)で作成したビーズに(2)で作成した初期核酸を結合させた。(1) で作成したHis-tagを除去した標的分子を用いて、結合核酸をビーズから解離させた。反応条件(塩濃度、pH、温度など)や解離に用いる標的分子の濃度など、変化させ、下記の(4)のPCR 増幅効率などを指標に最適化した 。 (4) 増幅と繰り返し:回収した結合核酸をPCRによって増幅する。これを3回繰り返し、各段階のものを全て配列決定に供する。 (5) 配列決定:得られた核酸混合物に対して、次世代シークエンサーを用いて、100 万個のレベルの網羅的な配列解析を行った。統計的処理による配列解析を行い、コンセンサス配列の決定を試みたが、有意な配列が得られなかったため、(2)や(3)の段階に戻り、塩濃度などの条件を変えて反復実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の予定は、(1) 標的分子の調製とビーズへの固定化、(2) 核酸ライブラリーの調製、(3) 標的分子固定化ビーズへの結合と解離、(4) 増幅と繰り返し、(5) 配列決定を行う予定であった。(4)までは順調に進んだが、(5)で十分に収束した配列情報が得られず、(2)-(4)の条件を変えた反復実験を行うこととなり、本年度終了した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度予定の遅れていた部分(上記)を完了すると同時に、今年度の実施計画である以下の内容を進める。 (6) 結合パラメータの定量:コンセンサス配列をもつ代表的な選別核酸を合成し、表面プラズモン共鳴装置および等温滴定熱量計を用いて、結合に関するパラメータを決定する。実際の結合力やその速度を評価する。また、この結合がエンタルピー駆動かどうか(水素結合形成を反映)を熱量から特定することも特異性の評価に寄与すると考えられる。結合定数が十分でない場合、ランダム化の領域を変化させたり、それ以外の部分の配列を変えるなどして、上記(2)からやり直す。なお表面プラズモン共鳴においては、核酸をビオチン化してチップに固定化する。SATB1 のDNA 結合ドメインとDNAの結合は強固ではなく、RNA により本来のDNA をしのぐ結合強度が得られる可能性も大きい。さらに、チオ化などの修飾による結合定数の向上を検討する他、結晶解析による評価も試みる。 (7) 細胞を用いた効果の検証:乳がん由来の培養細胞( MDA-MB-231など)を用いて、浸潤性や細胞増殖への選別核酸の効果を評価する。RNAiにおいては、SATB1のmRNAのレベルが12-30%程度に抑えられる結果、浸潤性が15-20%に低減されている。本研究で開発する核酸医薬はこの値を指標とし、それを顕著に超える効果を得ることを目指す。 (8) 核酸医薬による結合阻害に関する実験:SATB1のPDZドメインとHAT やHDAC などのヒストン修飾酵素やHIV-1 Tatとの相互作用に対し、選別核酸が共存することによる阻害効果を表面プラズモン共鳴もしくはNMR法によって評価する。同様に、SATB1のCUTr1もしくはホメオドメイン、これらの融合タンパク質とDNAの結合に対して、選別核酸の影響を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遅れが生じた分を取り戻すため、人件費等にあてる予定である。
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