本年度実施した研究により次の結果が得られた。 1)SRVより抽出したCa2+-ATPaseを、アルキル鎖が同じでヘッドグループだけが異なるリン脂質(フォスファチジルコリン(POPC)、フォスファチジルエタノールアミン(POPE)、及びファスファチジルグリセロール(POPG))を含むナノディスクに組み込んだ標品を作成した。作成において脂質の差により条件を変える必要であったが、いずれもゲル濾過カラムにおいてシングルのピークを持つ標品を得ることが出来た。またいずれの標品もCa2+-ATPase活性を保持していることが確認でき以降の解析に用いることが可能であった。 2)この標品を用いてE1P-E2P転換速度を測定したところ、POPCに組み込んだ標品はSRV中と比較して80%程度の速度であったのに対し、POPG及びPOPGではそれぞれSRV中の30%及び20%と大きく抑えられていた。次に活量と反応速度の関係を見ると、POPEはPOPCと比べて大きく速度が低下しているが、静電的相互作用はE1P転換ステップに対し促進効果を持ちその程度はPCとPEほぼ同等であること、活性の違いは静電相互作用以外の効果によることが明らかとなった。またPOPGでは静電的相互作用はE1P転換速度に関して中立的であり、静電的相互作用以外の効果はPC及びPEと比較して促進的に働くことが明らかになった。 3)PCとPEを1:1で混合したNanodiscにCa2+-ATPaseを組み込んだ場合、静電的相互作用は減弱され、非静電的相互作用はPCのみのNanodiscのときと等しいという結果が出た。これは、脂質ヘッドグループの電荷が混合により複雑に変化する可能性を示しており、脂質に埋め込まれは膜タンパクの機能を探るうえで、非常に興味深い知見である。
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