研究課題/領域番号 |
24570148
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高橋 康弘 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10154874)
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研究分担者 |
福山 恵一 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80032283)
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キーワード | 鉄硫黄クラスター / 鉄硫黄タンパク質 / 生合成 / マシナリー / 分子生物学 |
研究概要 |
大腸菌ではISCとSUFというタイプの異なる2種類のマシナリーがFe-Sクラスターの生合成を担っている。近年私たちは、大腸菌のイソプレノイド代謝経路を改変することによってFe-Sクラスター生合成マシナリーの必須性を回避し、両マシナリーをコードする遺伝子群を自在に操作できる実験系を開発した。H24年度はこのin vivo実験系を駆使して、マシナリーの中心成分の機能残基/機能領域を洗い出し、さらに、二次的なサプレッサー変異を同定した。それらの知見に基づいて、H25年度は機能不全変異/サプレッサー変異を持つマシナリー成分(IscU、IscS、SufBCD複合体、SufS、SufE)を精製し、それぞれの残基が具体的にどのような反応に関与しているのか、in vitroの反応を中心に解析を進めた。その結果、IscUのTyr3はIscSとの相互作用にきわめて重要で、活性中心を含むループ領域の構造変化を引き起こし、硫黄原子の受け渡しを促進する役割があることを見出した。またSufBCD複合体において、SufBのCys267はSufEから硫黄原子を受容する部位であること、Cys418とE447はFe-Sクラスターの新規形成部位としての可能性が高いことが判明した。 一方、グラム陽性細菌のFe-Sクラスター生合成系は、大腸菌のISCとSUFマシナリーの成分が入り交じったユニークなハイブリッド型と予想される。H25年度は、枯草菌のイソプレノイド代謝経路を改変してsufCDS-iscU-sufBオペロンの必須性を回避し、このオペロンを欠失した変異株を構築した。これらの変異株は形質転換能を欠如していたが、コンピテンスのマスター制御遺伝子であるcomKのプロモーターを改変することによって遺伝子導入が可能になり、関連遺伝子群を操作できる実験系を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究がスタートして2年間、in vivoで得られた新知見に基づいて、in vitroで機能評価を深化させることにより、クラスター生合成マシナリーの構造と機能ならびにマシナリー成分間の相互作用について新たな知見を得ることができた。 1. ISCマシナリーの成分であるIscUの機能不全変異型、またそれをサプレスする変異型IscSタンパク質をそれぞれ精製し、両者のin vitro反応を野生型タンパク質と比較することによって、硫黄原子の転移反応において鍵となる相互作用を明らかにした。 2. SUFマシナリーの中心成分SufBに対する系統的な変異導入実験から、8種類の必須残基を同定した。また、これら機能不全変異型SufBを含むSufBCD複合体を精製してin vitroでSufS、SufEとの相互作用を解析することにより、硫黄原子の受け渡しに与る残基/領域を明らかにした。 3. ISCマシナリーの成分FdxとSUFマシナリーの成分SufCについて、大腸菌のin vivo実験系を利用して系統的な変異導入実験を行い、それぞれの機能残基/機能領域を同定した。 4. 枯草菌にはFe-Sタンパク質が70種類以上存在しているが、イソプレノイド代謝経路を改変することによって、これまで必須とされていたsufCDS-iscU-sufBオペロンを欠失させ、変異株を構築することができた。この変異株ではFe-S酵素が機能しておらず、アミノ酸(イソロイシン、バリン、ロイシンなど)やプリン、ピリミジンに要求性を示すこと、TCAサイクルや電子伝達系のFe-Sタンパク質が機能不全となっても酸素呼吸によって生育することが判明した。また、comKのプロモーターを改変することによって変異株への遺伝子導入が可能になり、関連遺伝子群を操作できる実験系を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. in vivoとin vitroの実験系を連携させて、Fe-Sクラスター生合成マシナリーの系統的な解析をさらに進める。これまでにISCマシナリーの成分IscUとFdx、SUFマシナリーの成分SufBとSufCについて機能残基/機能領域を同定しているので、H26は新たなサプレッサー変異の同定を試みる。また、それらin vivoの知見に基づいて、精製標品を用いた機能評価を深化させる。 2. 枯草菌のハイブリッド型生合成マシナリー(sufCDS-iscU-sufBオペロン)のなかで特にIscUホモログに着目し、in vivo実験系を利用して具体的な機能性を明らかにする。大腸菌のIscUまたはSufEとの機能的な互換性についても検討する。 3. Fe-Sクラスター生合成系とクラスターを受け取るアポタンパク質との相互作用は、一過的で微弱なことが予想される。これらの相互作用を補足する目的で、ホルムアルデヒド(膜透過性で官能基に対する特異性の広い架橋試薬)を用いたin vivo架橋反応を検討する。架橋産物は特異抗体を用いたウエスタンブロッティング、ならびに免疫沈降と質量分析により同定する。 4. H25年度明らかにしたIscUとIscS間の相互作用に基づいて、それぞれの変異タンパク質を過剰に発現させ、複合体としての精製ならびに結晶化を検討する。機能不全型のSufBCD複合体についても、結晶化条件を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた状況については、野生型/変異型タンパク質の精製条件の検討が予想より順調に進んだため、クロマト用樹脂の多くを既存のものでまかなうことができたのが理由である。 H26年度は、以下の用途に使用する計画である。 物品費の多くは、クローニングや部位特異的変異の導入、DNAシークエンシングなどの分子生物学実験に用いる試薬類、一般的な生化学実験に用いる試薬類、タンパク質の分離・精製に用いるクロマト用樹脂、結晶化に必要な試薬類の購入に充てる。結晶化用VDXプレート、ディスポーザブルチップ、ピペット、チューブ、シャーレなどのプラスチック器具類、ならびに論文別刷りの購入費用も消耗品費に含む。国内旅費は、連携研究者との共同研究をはじめ、国内学会やシンポジウムなどにおける成果発表を予定している。人件費・謝金等では、研究補助者のアルバイト料、および英語論文原稿の英文校閲を予定している。
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