研究課題/領域番号 |
24570149
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊治 東京工業大学, 資源化学研究所, 東工大特別研究員 (60618809)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | F1-ATPase / human / motor protein |
研究概要 |
本年度はまず、ヒトF1の回転モーターの回転触媒機構の分析を行った。その結果、ヒトF1は一回転あたり、9点の短い停止を伴いながら回転することが明らかになった。AMP-PNP、ATPgammaS、チオリン酸などのアナログ基質などを用いた分析の結果、これらの停止は3種類に分類され、触媒反応の素過程のATP結合、ATP加水分解、リン酸解離に対応していた。それらは1つのATP加水分解サイクルである120度で考えると、0度、90度、65度に位置することが判明した。また、一つのATP分子に注目すると、ATP結合が0度、ATP加水分解が185度、結合したATPから遊離したリン酸の解離が270度であることも明らかになり、ほぼヒトF1の回転触媒機構を解明することに成功した。 さらに、IF1によるF1の回転調節機構に関する知見を得るため、IF1がヒトF1の回転をどの角度で停止させるかを分析した。その結果、IF1は加水分解が起こる90度でF1を固定することが判明した。この結果は、IF1はATP加水分解ステップを阻害するという、X線結晶構造解析から提唱されているモデルに合致する。ここまでの成果は、現在、ほぼ論文投稿の段階まで来ている。 また、磁気ピンセットによりF1を強制回転させIF1阻害の解除を測定する実験をおこなった。その結果、IF1により阻害状態に陥っている分子は、ATP加水分解方向への強制回転では、過大なトルクを負荷しても、その高いエネルギー障壁のために回転させることはできず、ATPase方向の力では阻害から解除されないことが判明した。その一方、ATP合成方向には回転させることは可能で、その結果、IF1による阻害状態から高い確率で回復することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度の顕微鏡一分子観察実験により、ヒトF1は一回転あたり9つの素過程に対応する短い停止を発生させながら回転することを明らかにし、それらは3種類の素過程(ATP結合、加水分解、リン酸化解離)から構成されている事も判明した。この研究により、ヒトF1の回転触媒機構はほぼ解明されたと言える。さらに、IF1がそれらの素過程のうち、加水分解ステップを阻害することも明らかにした。これらの研究成果は、すでに論文を投稿できる段階まで来ている。これらの成果を考慮すると、第一年度の研究目標の一つである「IF1がヒトF1のどの素過程を阻害するかを明らかにする。」という課題は達成されたと言える。 またもう一つの目標である、磁気ピンセットのよる強制回転を用いた、IF1の阻害機構の分析に関しては、IF1により阻害されたヒトF1が、ATP加水分解方向への強制回転では阻害が解除されないのに対し、ATP合成方向の強制回転では解除される事を見出した。この結果は、IF1はATP加水分解活性のみを阻害し合成活性を阻害しないという生化学的な分析結果と合致しており、IF1阻害の理解の手がかりになると考えられる。また同時に、この分析システムがIF1阻害の分子機構の解明に有効であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に交付申請書の研究計画にそって研究を行うが、磁気ピンセットを用いた強制回転の実験から重要な研究成果が得られたため、まずその研究をまとめる事を優先的に行う。その課題と平行して、研究計画で予定している、蛍光一分子分析による、回転とIF1結合/解離の相関の分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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