研究課題
本研究課題の目的は、ヒトF1の阻害因子であるIF1の阻害の分子機構を明らかにする事である。しかし哺乳類F1の分子機構はよく分かっておらず、研究の第一段階でヒトF1の回転触媒機構を明らかにする必要があった。そこでまず、ヒトF1のATP加水分解と回転ステップとの対応付け、およびIF1がヒトF1の回転をどの角度で停止させるのかを分析した。その結果、ヒトF1は一回転あたり9点ステップし、ATP一分子分で回転する120度中では3点の止まり(dwell)が存在することが明らかになった。それらのdwellはATP結合を0度とすると、生成物リン酸の解離が65度、加水分解が90度であり、IF1が結合しF1を停止させるのは90度であった。この角度(90度)はATP加水分解が起こる角度であり、IF1はF1のATP加水分解の素過程を阻害するというウシF1のX線結晶構造解析からのモデルと一致した。ヒトF1の回転触媒機構はバクテリア酵素のものとは異なり、さらに高速で回転する為に分析には時間を要したが、様々な新しい知見を得ることができた。そしてこれらの結果は論文出版により公開した(Nature Chem Biol)。さらに並行して、磁気ピンセットを用いてIF1の阻害機構の分析を行った。その結果、IF1はアジ化ナトリウムやMgADP阻害などの阻害様式とは異なり、F1の回転をほぼ完全にロックし、加水分解方向には回転できない(無理に回すと構造が壊れる)分子状態に陥らせることが判明した。しかしその一方、ATP合成方向にF1を回転させると、IF1は阻害能を解除することが明らかになった。これらの特性は、細胞が飢餓状態の時に、IF1はF1によるミトコンドリア内のATPの浪費(分解)を阻害すると同時に、飢餓状態から栄養状態へ生理状態が回復した際、速やかにATP合成を開始させる事に繋がっていると考えられる。
すべて 2014
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Nature Chemical Biology
巻: 10 ページ: 930, 936
10.1038/nchembio.1635
Neuron
巻: 84 ページ: 1287-301
10.1016/j.neuron.2014.11.008