研究課題
基盤研究(C)
Fbw7の既知の基質の多くはコンセンサス配列(CPD)を持つことが報告されており、しかもCPD はGSK3によってリン酸化される事がFbw7の結合認識に重要なイベントとなることが多い。このことを手がかりにして、GATA-3に対するFbw7のE3 ligase としての関与が見出され、本課題の研究の土台となった。当該年度はFbw7によるユビキチン化がGATA-3にとってどのような意義を持つ修飾であるのか、検証を進めた。MS解析およびin vivo ユビキチン化アッセイなどの結果から、CPD依存的なFbw7によるユビキチン化修飾は、他の部位のリン酸化修飾によって抑制されることがわかってきた。細胞株を用いた内因性GATA-3 とFbw7の量的制御における関係は明確に観察されず、これはCPD以外でのリン酸化が細胞内で発生する事でより複雑な制御が起こっているためではないかと推測された。Fbw7の基質はこれまでに多数報告されているが、基質のユビキチン化においてCPD以外の二次的なリン酸化修飾の制御機構が認められた報告例はなく、25年度以降の研究でさらに詳細を明らかにしたい。GATA-3はT細胞の分化制御因子であるため、血球系細胞の分化進行におけるFbw7の機能の重要性が推測される。そこでT 細胞の分化度に焦点をあててT 細胞特異的Fbw7ノックアウトマウスの解析を行った結果、分化の進行に伴って存在量が減少すべき過程でGATA-3の残存が認められた。既報のGATA-3の下流因子を対象に発現変動を検討したが、明確な連動因子は見つからなかった。その一方でGATA-3の異常蓄積を認めたlineageでは、分化の遅滞と細胞死の亢進が観察された。このことはFbw7がT細胞におけるGATA-3の量的変動の制御に関与して、分化進行を促している事を示すものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
Fbw7の E3 ligaseとしての基質との関与は、これまでにユビキチンプロテアソーム系によるタンパク分解の亢進をもたらす作用とそのメカニズムについて解明が進んできた。本課題ではGATA-3に対してはFbw7の関与が分解以外の関与をもたらす可能性に着目しているが、培養細胞を用いたin vivo レベルでの解析とともに、MS解析などin vitro レベルでの解析を加えたデータを得る事ができた。その結果、複数箇所のリン酸化修飾が、Fbw7のGATA-3に対する分解誘導因子としての機能を正負両方向に制御していることを見出す事ができた。このような制御は他の基質においては未だ報告がなく、今回得られた知見は、Fbw7の機能に対する緻密な制御機構が多くの基質においても稼働していることを推測させるものである。また、GATA-3に対するFbw7の関与の生理的意義は、T細胞特異的なFbw7コンディショナルノックアウトマウスを対象にする事で解析が可能となり、データは順調に蓄積中である。
Fbw7の機能制御にリン酸化が当初の予想以上に重要な役割を担っている事が判明したので、これに関わっているキナーゼの特性やその活性制御機構にも注目しながら、細胞内でのGATA-3制御機構を調べていく。T細胞の分化過程では、異所的なGATA-3の存在はアレルギー疾患などの原因になることが報告されている。そこで、個体レベルでのFbw7が担うGATA-3タンパク質の量的制御の重要性について、T細胞特異的Fbw7コンディショナルノックアウトマウスを対象にした解析を更に進めていく。Fbw7遺伝子の異常が複数の癌種で高頻度に見つかっていることから、Fbw7の生体内での役割としては癌発症抑制の機能に注目が集まっているが、次年度の研究成果によって、Fbw7が基質分解を介して生体の恒常性維持において癌抑制以外にもどのような関与を持っているのか、新しい知見を得たい。
実験の内容としては、培養細胞を用いたin vivo系のタンパク修飾および分解に関する実験、リコンビナントキナーゼを用いたin vitro リン酸化およびその関連実験、遺伝子改変マウスを用いた疾患発症リスクの検討、胸腺および脾臓などからFACS分画したlineage細胞を対象とする分化度などの各種解析が予定される。次年度研究費は、これらの実験に必要な抗体や酵素など各種試薬とプラスチック器具などの各種消耗品、および動物維持の諸費用などに充てるとともに、得られた知見を学術学会で発表するための諸費に用いる。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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