癌細胞は、腫瘍組織に形成される細胞外マトリックスとの相互作用を通して浸潤能を獲得し、転移する。本研究代表者は、腫瘍組織の主なマトリックス成分であるヒアルロン酸の断片化によるリモデリングが、癌細胞の浸潤性を亢進する機構を解明してきた。本課題では、細胞膜脂質ラフトの役割に焦点を当て、これまで不明であったメゾスコピックな膜ダイナミクスによる細胞接着の動的秩序形成機構を明らかにすることを目的とした。 まず、生化学的解析においては、脂質ラフトの破壊処理により、細胞外マトリックスの代表的なレセプターであるCD44の活性が変化することを見出した。ショ糖密度勾配遠心分離法による界面活性剤不溶性膜画分(DRM)の調製を行い、CD44の脂質ラフト局在性の変化を解析した。 次に、大気圧電子顕微鏡解析(Atmospheric Scanning Electron Microscopy)により、開放型ディッシュ内の液中で、細胞表面のCD44の分布と、細胞表面の微細構造を高分解能観察した。その結果、細胞膜におけるCD44のクラスター形成とCD44のヒアルロン酸結合能との相関を見出した。さらに、剪断応力下での細胞動態を解析したところ、脂質ラフトがCD44による細胞接着を制御することが明らかになった。 さらに、大気圧電子顕微鏡と生細胞イメージングにより、細胞が細胞外マトリックスと相互作用するときの細胞表面の微細構造と、その動態との相関を見出した。
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