研究課題/領域番号 |
24570157
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 泰憲 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30467659)
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キーワード | 小胞体 / 尾部アンカー型膜タンパク質 / 膜挿入装置 / CAML複合体 |
研究概要 |
尾部アンカー型膜タンパク質は細胞内膜系の至る所に局在し、細胞内小胞輸送、タンパク質の合成と分解、シグナル伝達、オルガネラ形成、脂質代謝など様々な重要な機能を担っている。尾部アンカー型膜タンパク質は生合成過程において、シグナル配列がリボソームの外へ出てくる前に翻訳が終了するため、トランスロコンによる翻訳と共役した小胞体膜への挿入が物理的に不可能である。このため必然的に翻訳後に膜挿入されなければならないが、膜挿入装置の実態は長い間不明のままであった。これに対し私どもは昨年度、非トランスロコン型膜挿入装置としてCAML複合体を発見した。 本年度は、CAML複合体の機能解析をさらに推し進め、翻訳後に膜タンパク質を小胞体膜に配向挿入する原理の解明を試みた。その結果、CAMLに結合する膜挿入制御候補分子として細胞膜受容体型タンパク質と小胞体膜タンパク質の2つを同定した。これらの膜挿入反応における役割を生化学的に検討した結果、細胞膜受容体型タンパク質は膜挿入を負に制御し、小胞体膜タンパク質は正に制御していた。このように膜タンパク質の配向挿入原理の理解に不可欠な小胞体膜挿入の活性調節因子を解明しつつある。また、膜挿入装置の活性は小胞体の膜形態により物理的に調節されていることが予想され、私どもは新しい小胞体膜変形タンパク質としてArl6IP1を同定した(Yamamoto et al., Biochem. J. (2014))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCAML複合体の活性を正負に調節する2つの異なる分子を同定し、その機能解析を行った。同定した活性制御分子は膜挿入の観点から新規のタンパク質であり、本解析を推し進めることで膜挿入の制御機構の新しい概念を提示できると考えている。また、活性調節分子の1つは細胞膜受容体型タンパク質であることから、小胞体膜挿入制御と細胞内シグナル伝達の新しい機能関係の発見につながると予想している。さらに膜挿入制御の物理要因の1つとして小胞体膜変形があるが、私どもは新しい小胞体膜変形タンパク質としてArl6IP1を報告した(Yamamoto et al., Biochem. J. (2014))。このように、同定した分子の生理機能解析を推し進めることで、膜挿入を作用点とする生命の恒常性維持の機構について全く新しいメカニズムの発見に繋がる可能性が高い。従って、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
発見した活性制御分子をツールにして、膜挿入装置CAML複合体の駆動機構の解析を推進し、翻訳後に膜タンパク質を小胞体膜に配向挿入する原理の解明を行う。具体的な方策は以下の3つである。 ① 膜埋め込み制御の分子機構:発見した活性制御分子をプローブにして、CAML複合体を含む活性制御分子タンパク質複合体をミクロソームより生化学的に精製、同定し、膜挿入制御に関与する分子群を網羅的に明らかにする。さらに、複合体中における各構成因子の構成比を明らかにし、膜挿入と活性制御に必要な分子複合体の実態を明らかにする。 ②膜埋め込み制御の構造基盤:①で同定した活性制御分子群を含んだCAML複合体の結晶構造を解析することで、膜埋め込み制御過程における構造変化を捉え、膜埋め込み装置の分子機械としての作動機構を構造レベルで明らかにする。 ③膜構造の制御機構と配向挿入原理の解明:活性制御分子群およびCAML複合体の組換えタンパク質とリポソームを用いて膜埋め込み制御過程を試験管内で再構成する。試験管内再構成アッセイ系における膜挿入制御状態を凍結し、クライオ電子線トモグラフィーにより脂質膜構造を含めて解析する。得られた脂質膜を含む3次元解析像にCAML複合体の結晶構造をフィッティングすることで、膜埋め込み装置の作動と脂質膜の構造変化の機能関係を明らかにする。得られた結果を統合し、翻訳後に尾部アンカー型膜タンパク質を小胞体膜に配向挿入する原理を明らかにする。
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