研究課題
基盤研究(C)
腸球菌V-ATPアーゼNtpK回転リングのX線結晶構造によると、共役イオンであるNa+やLi+の結合には、アミノ酸残基T64、Q65、Q110、E139、およびL61の5個の酸素原子、ion occlusionに関わるE139残基により安定化されたQ110、Y68、およびT64の側鎖の水素結合が関与している(PDBアクセッション番号2BL2と2CYD)。E139以外の4つのアミノ酸残基に対してアラニン置換変異体を作成しV-ATPアーゼの活性を調べた。その結果、 Q65AとY68A変異体のV-ATPaseの活性は多少保持されたが、T64AとQ110A変異体の活性はごくわずかであった。T64およびQ110は、E139に加え連鎖球菌V-ATPアーゼのイオンカップリングのために不可欠であることを示している。我々のグループはすでに腸球菌V-ATPアーゼ、主要サブユニットA3B3複合体と中心軸DFサブユニット複合体から構成される触媒頭部V1-ATPaseの再構成系を構築している。それぞれ基質であるヌクレオチドの有り無しの状態で、A3B3複合体及びA3B3DF複合体の2.2から3.4オングストロームレベルのX線結晶構造解析に成功した。基質ヌクレオチドの結合による複合体のコンフォメーション変化が、右回り回転に伴ってcooperativeに行われること、中心軸のDF複合体が結合することにより、より密なヌクレオチド結合部位が誘導されること、保存されているアルギニン残基によりATP触媒活性が促進されることなど、V-ATPアーゼの回転酵素としての本質的な分子反応メカニズムを示す構造解析に初めて成功した。
2: おおむね順調に進展している
V-ATPアーゼサブユニット間相互作用を、X線結晶構造に照らし合わせて、遺伝子工学的アプローチを進めるのが、本研究計画の骨子である。変異体を用いた解析結果が出つつあることと、X線結晶構造解析にも成功し、論文として取りまとめており、おおむね順調に進んでいると判断する。
今後の研究の手法・方向性も前年度と基本的に変更はなく、解明された立体構造にもとづいて、V-ATPアーゼ触媒部分回転メカニズムの基盤となる構造解析、イオン輸送回転ローターのイオン結合・イオン輸送共役に関わるアミノ酸残基の役割について、遺伝子工学的手法を用いて分子・原子レベルよりアプローチする。V-ATPase回転モーターが作動するためには、NtpKリングはその内面でV1触媒頭部が発生するトルク(回転力)を仲介する中心軸サブユニットNtpC、NtpDなどと相互作用する必要がある。NtpCの結晶構造は現時点で解明されていないが、Thermus菌の類似V-ATPaseのサブユニットC(NtpCに相当する)の結晶構造を参考に、部位特異的変異を導入する。NtpC/NtpKリングが直接相互作用する部位は、Cys置換変異及び化学架橋実験により実証する。NtpKリングが関わるサブユニット間相互作用に対するNa+の作用性が注目される。NtpCなどの回転がNtpKリングの回転と連結せず、ATP加水分解がイオン輸送とuncoupleした変異株も相互作用を検証する。前年度解明した腸球菌V1複合体A3B3DFのX線結晶データに対して、引き続き構造解析を進める。V1触媒頭部(NtpA, NtpB, NtpD)はその精製系及び個々のサブユニット遺伝子変異導入系が確立している。構造解析の進展に合わせて、A3B3とDサブユニット間のATP依存性回転トルク発生に共役するサブユニット相互作用について、遺伝子工学による変異酵素の構造と活性解析により、メカニズムについてさらに詳細な解析を進める。
繰り越し分と翌年度分を合わせた予算に関して、物品費(消耗品)、旅費、人件費に充てる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Nature
巻: 493 ページ: 703-707
10.1038/nature11778
Journal of Bacteriology
巻: 194 ページ: 4546-4549
10.1128/JB.00714-12