研究課題
昨年、連鎖球菌V―ATPアーゼの触媒頭部V1を構成するA3B3複合体及びA3B3DF複合体のX線結晶構造を報告した。これら複合体の立体構造情報より、A3B3と中心回転軸DFとの相互作用に120個ものアミノ酸残基が関与することが明らかになった。今回、A3B3複合体とDF二量体間の境界領域に存在し保存性の高い10個のアミノ酸残基に対して変異を導入し、ATPアーゼ活性及びA3B3とDFとの結合親和性に対する影響を調べた。その結果、いくつかの変異体はA3B3とDFとの結合親和性の低下を伴って、ATPアーゼ活性の促進が観察された。その一方で、境界面での結合性の低下が分子としての不安定さに繋がっているために、ATPアーゼ活性の不活化は野生株よりも早く観察された。V1部分におけるA3B3とDFとの相互作用の強さが、V1複合体の安定性及び活性の安定性に寄与していることが考えられた。さらにサブユニットAのC末端側に位置するアミノ酸残基に対する変異の影響を調べた。その結果サブユニットA(LV476-7AA)変異により、A3B3複合体と野生型DFあるいは変異DF二量体との結合親和性が、逆に上昇すること、その結果、野生型A3B3複合体に較べてATPaseの活性が低下することを見出した。この結果は、上記の結果と合わせて、回転中心軸DF二量体とA3B3複合体との接触面での結合性が、回転モーター分子としての活性及び分子の安定性に直結していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
初年度に我々のグループが解明したV-ATPase触媒頭部のX線結晶構造情報に照らし合わせて、遺伝子工学的アプローチにより本酵素のメカニズムに関わるサブユニット間相互作用を解明するのが、本研究計画の目的である。変異体の作成、解析の進展に伴って、論文としての取りまとめも進められており、おおむね順調に進展していると判断した。
昨年度と同様に、今後の研究手法、方向性について基本的に変更はない。我々のグループが明らかにした腸球菌V-ATPアーゼの立体構造にもとづいて、V-ATPアーゼ触媒頭部における回転トルク発生に関わるサブユニット間相互作用、イオン輸送回転部分を構成するNtpKリングとのエネルギー共役に関わるメカニズムを検討する。V-ATPアーゼ回転モーターが作動するためには、V1触媒頭部が発生するトルク力を仲介する中心軸サブユニットDF及びCとNtpKリングの内面との相互作用が重要である。NtpCの結晶構造は現時点で解明されていないが、Thermus菌の類似V-ATPaseのサブユニットC(NtpCに相当する)の結晶構造を参考に、サブユニットCに対して部位特異的変異を導入し、回転エネルギーの共役に関わる重要なアミノ酸残基、その側鎖の役割を秋赤にする。NtpCとNtpKリングとの直接相互作用におけるNtpKリング側の役割について、NtpK側のサプレッサー変異の単離及びNtpK機能解析により検討する。NtpCの回転がNtpKリングの回転と連結せず、ATP加水分解がイオン輸送とuncoupleした変異株の単離が重要なステップになると期待している。引き続きA3B3複合体及びA3B3DF複合体のX線結晶構造情報をもとに、サブユニット間相互作用に関わるアミノ酸残基に部位特異的変異を導入し、変異複合体のATPアーゼ活性、分子としての安定性等を指標にメカニズムに関わる重要な分子構造に関する解析を進める。
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Springerplus
巻: 2 ページ: 689-695
doi: 10.1186/2193-1801-2-689. eCollection 2013
PLoS One
巻: 8 ページ: e74291-74299
doi: 10.1371/journal.pone.0074291. eCollection 2013.