本年度は、まず、昨年度に得た100 umの結晶にX線を照射して解析を行ったが、分子構造情報を得るのに十分な回折度の結果を得ることができなかった。再度、結晶化条件を変えて条件検討を行おうとしたところ、8量体と6量体の2つのタイプのメタロチオネインが精製された。これらをゲル濾過で分離し、結晶化を行ったが、色々な結晶化条件を検討しても、殆どの結晶は小さく、また、大きな結晶が得られてもエッジのはっきりしない結晶しか得られなかった。 精製されたメタロチオネインの性質を詳細に調べたところ、得られたメタロチオネインは6量体のものと8量体の2種類があった。6量体のものには、6量体あたり36原子のZnが結合していた。これらをCdに置換したところ、6原子はCdに置換されずにZnのままであったことから、メタロチオネインモノマーには結合の強いZn結合部位があることが示唆された。今後、更に結晶化条件の検討を重ね、構造解析に向けたい。 本研究では、金属結合タンパク質の構造解析を行っており、メタロチオネインの構造解析を目標としているが、別の金属結合タンパク質「光化学系II複合体」を構成するシトクロムb559の構造についても調べた。このシトクロムは2つのタンパク質のHisが1分子のヘム-Feに配位しており、既に1.9 Aの分解能でX線構造が報告されている。本研究では、ヘムの配位子である片側のHisをAlaに置換した組換え体を作製し、その構造と性質を調べた。その結果、ヘムはなくなり、非ヘム鉄がもう一つのタンパク質のHisのNに配位していた。この光化学系II複合体は、本来の光合成機能に変化はないものの、シトクロムb559の酸化還元不活性化により、副次的電子移動経路が壊れ、光ストレス防御機能を失っていた。このことから、シトクロムb559が副次的電子移動の電子伝達コファクターであることが実験的に始めて示唆された。
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