研究課題
腸内の常在細菌は宿主の免疫反応から免れて増殖し、腸管の恒常性に寄与するとともに各種栄養源の供給を行っている。しかし、病原細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカン(PGN)と常在細菌のPGNを識別する分子機構は不明である。トランスグルタミナーゼ(TG)は、グルタミン残基とリジン残基の側鎖同士を架橋する架橋酵素である。ハエにおいては、TGをRNAiによりノックダウンすると、外皮の異常を誘導するとともに、生存率が著しく低下することが判明した。本研究では、TGによる腸管上皮の情報伝達制御、および宿主と腸内細菌との共生成立の分子機構を解明することを目的とする。TG-RNAiにより、通常飼育した非滅菌ハエの生存率が有意に減少したが、滅菌ハエにおいては、TG-RNAiによる生存率低下は観察されなかった。一方、腸管のPGN受容体を介した情報伝達経路であるIMD経路の抗菌ペプチド産生は、TG-RNAiした非滅菌ハエにおいて著しく亢進していた。さらに、TG-RNAiした非滅菌ハエの腸管抽出物を、野生型の滅菌ハエに経口投与すると、生存率の低下を引き起こした。また、非滅菌ハエにTG-RNAiを行うと、腸管上皮細胞のアポトーシスの原因となり、IMD経路のNF-κB様転写因子であるRelishの核移行を誘導することが判明した。TGの架橋反応を阻害する試薬を非滅菌ハエに経口投与すると、腸管上皮細胞のRelishの核移行が促進され、結果的に抗菌ペプチド産生が増強された。以上のことから、TGがIMD経路の転写因子Relishを架橋して不活性化させ、常在細菌に対する過剰な免疫応答を抑制することで、腸管免疫の恒常性維持に寄与していると結論した。本研究成果は、2013年7月23日付けのScience Signaling誌に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
TGによる転写制御の標的となる転写因子を同定でき、複雑な情報伝達経路の制御機構に一旦を解明できた。また、その成果を一流雑誌であるScience Signalingに掲載することがきた。
これまで宿主の抗菌ペプチド産生は、定量PCRによるmRNA量で判断され、産生された抗菌ペプチドのタンパク質の定量測定はなされていない。本研究では、タンデム四重極型質量分析計を用いて、腸管に分泌された抗菌ペプチドのタンパク質量を決定するとともに、dTGのRNAi前後における共生細菌の同定、共生細菌を単一で定着させたノトバイオートハエを用いた生存率の解析、合成抗菌ペプチドを用いた共生細菌に対する抗菌活性の測定などを行って、宿主の免疫応答制御を介した腸内細菌の共生成立の分子機構を解明したい。
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Science Signaling
巻: 6, ra61 ページ: 1-10
10.1126/scisignal.2003970