研究課題/領域番号 |
24570165
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 一也 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30150395)
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キーワード | GPIアンカー / 線虫 / 生殖幹細胞 / 卵母細胞 / 減数分裂 / 幹細胞ニッチ |
研究概要 |
モデル生物 線虫C. elegansのGPIanchor型蛋白質合成が生殖系列の発生(卵母細胞の形成)に不可欠であることを明らかにした論文を2012年に発表した。GPI anchor合成は線虫の生殖細胞ニッチの維持に不可欠であり、GPI anchor型蛋白質合成なしには子孫がのこせず、生命の連鎖はとぎれるという本研究成果はGPI anchor型蛋白質合成の重要性を明確にした研究として多大の注目を浴びている。この成果を更に発展させるため、昨年度、本年度と引き続いて「生殖幹細胞ニッチの維持と形成に重要な機能を果たしているGPI anchor型蛋白質」を同定するための研究を実施した。 本年度は、前年度の報告書で述べた線虫の生殖巣の端に存在する2個の体細胞(distal tip cell:DTC)でだけ野生型のpiga-1遺伝子を発現してレスキューしたpiga-1遺伝子のノックアウト株と野生株を大量培養する作業を繰り返し、野生株とDTCレスキュー株両者で合成されているGPI anchor型タンパク質を比較同定する研究を行った。その結果、二つの遺伝子産物を同定し、遺伝子機能のRNAiによる阻害実験を行うとともに、遺伝子産物の局在を特異的ペプチド抗体で探っている。またバイオインフォマティクスで予測された全GPI anchor型タンパク質遺伝子のRNAi実験をほぼ終了し、現在めぼしい重要遺伝子について確認を行っている。並行してバイオインフォマティクスによる配偶子幹細胞に関する信号伝達系を解析しており、候補遺伝子を同定して解析中である。また私達が共同作製し産業技術総合研究所で本年公開予定のC. elegans Glycogene Database(CGGDB)は、GPI anchor合成遺伝子のみならず、線虫の全糖鎖遺伝子の情報を世界の誰もが容易に取得できる有用なデータベースとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
優秀な大学院生(複数)の参画を得て、配偶子幹細胞ニッチの維持に関わる遺伝子の同定研究は順調に進展して、候補遺伝子もしぼれてきた。また系統的な糖鎖遺伝子のRNAiの実験も終了し、特に生殖系列の発生に関わる糖鎖遺伝子の全貌を解明する実験が終了したことは特筆すべき成果である。この成果から生殖系列形成に重要なGPIアンカー型蛋白質の候補を絞り込む基礎データが得られた。さらに線虫のGPIアンカーの研究について、海外の著名研究者Karen Abbott博士との共同研究も開始して成果をあげはじめている。全糖鎖遺伝子の阻害実験結果と線虫の全糖鎖遺伝子についてのデータについては、上述した線虫糖鎖遺伝子データベース(CGGDB)が完成しており現在、論文投稿中である。受理と同時にデータベースは公開される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
同定した幹細胞ニッチに不可欠な遺伝子候補について確認実験を行い、それらの分子が本当に探し求めていた遺伝子であるかどうかを多面的に検証する。このため共同研究を実施するとともに、線虫のGPIアンカーの分子構造についての研究の準備、および哺乳類の生殖幹細胞ニッチへのオーソログ遺伝子の関与の調査の準備を進める。また研究成果の論文、学会発表等を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していたGPI anchor型蛋白質のαトキシンによる濃縮および質量分析による同定について、研究実施方法を見直したため費用が格段に節約できたことが主な理由である。 研究計画の完了のための最終実験に関わる消耗品等の購入費、テクニカルスタッフ雇用費用、研究成果の論文発表用費用、共同研究についての連絡費用、学会旅費などにあてる予定である。
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