研究課題/領域番号 |
24570166
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
甲斐 正広 札幌医科大学, 医学部, 講師 (80260777)
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キーワード | ジアシルグリセロールキナーゼ / エピジェネティクス / 大腸がん |
研究概要 |
前年度の研究ではDGKG発現抑制細胞株にDGKγを過剰発現させるとコントロールと比較して細胞の増殖速度が約80%に減少すると報告したが、幾つかの細胞株を用いてさらに詳細に検討を進めた。前年度同様に、アデノウイルスを用いてDGKG発現ベクターを細胞に導入するが今回は調製が遅れていたDGKG野生型のアデノウイルスも揃ったので、コントロール(LacZ)、DGKG野生型(WT)、DGKG不活性型ミュータント(KD)、DGKG常時活性化型ミュータント(CA)の4ベクターで結果を比較した。使用細胞株もDLD1、RKO、HCT116と大腸がん由来の3種を用いてMTTアッセイ法により検討した。すると、WT発現細胞の増殖速度はLacZ発現細胞とほとんど変わらないことが明らかにされた。しかも驚くべきことにKD、CA発現細胞はともに増殖速度が大きく減少した(コントロールの約70%)。DLD1細胞を用いて細胞運動能を調べたところ、コントロールとWT発現では差が見らないものの、KDとCA発現ではそれぞれコントロールの約50%に細胞運動能が減少しており、細胞増殖能への影響と同じ傾向を示した。一方HCT116細胞を用いた実験では、WTおよびKDの発現がコントロールの約60%に細胞運動能および細胞浸潤能を減少させた。さらにCAの発現により両能力はさらに大きく減少した(コントロールの約20%)。この複雑な結果は、DGKGが細胞内で精緻な制御を受けている可能性を示す。現在より詳細な検討を進めている。 DGKGの発現により発現量が変動する遺伝子を網羅的に調べるために発現マイクロアレイ実験を行ったが、有意に変化する遺伝子の中に興味を引くようなものは見つかっていない。また、DGKG発現によるRac1、RhoAの活性化は検出できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DGKGの発現抑制が大腸組織のがん化と関連があるかどうかを明らかにするためにDGKGの機能解析実験を進めているが、幾つか予想外の結果が得られており、その度に仮説を修正しながら研究を進行している。現時点では研究をどのような形でまとめるのかを決めかねており、当初の予定通りの進行ではないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から引き続き、DGKGの細胞内機能を探る試みを続ける。これまでの実験結果から、DGKGの発現が酵素活性によらず増殖や運動を抑制する影響を与えると考えていたが、DLD1細胞では野生型DGKGを発現しても影響が現れなかったので、単純な理由ではなさそうである。DGKGの酵素活性が失われているときと常時活性化されているときとで全く異なるメカニズムによって増殖や運動が抑制されているという仮説を現在考えている。 前年度はRacやRhoの活性化を検出しようとする試みはうまくいかなかったが、さらに下流のWAVE、WASPあるいはROCKなどの活性化まで範囲を広げて複雑な運動制御の細胞内シグナル伝達系のどの場所にDGKGが関与するかを調べたい。 一方で、DGKGの細胞内機能が最後まで明らかにできない可能性もある。この場合に備えてDGKGを大腸がんマーカーとして利用できるかどうかについても検討する必要がある。さらに検体数を増やした統計的解析を平行して進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度は次年度使用額251870円が生じた。前年度の実験は研究室の他のプロジェクトと同じ器具を使うことが多く、自分の科研費を使う機会が予想より少なかったことがその理由としてあげられる。前年度の期末の段階では、残額を用いて購入すべき優先度の高い物品も無かったので次年度使用額として処理をした。 交付される助成費は本年度も全て基本的に消耗品代に充てる予定である。次年度使用額として今回多少増えた金額は、DGKGが関与するシグナル伝達系の分子探索用に、幾つか抗体の購入を予定している。
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