本研究は、ライソゾームの機能不全により引き起こされるライソゾーム病の発症メカニズムを分子レベルで理解するために、(1)ショウジョウバエを用いてライソゾームへの蛋白質輸送に関わる遺伝子を網羅的に探索し、(2)得られた遺伝子の哺乳動物ホモログを単離し、その生理機能を明らかにする事で、ライソゾーム酵素輸送の分子メカニズム、ひいてはライソゾーム病の原因の分子レベルでの理解を目指す。 新規に合成されたライソゾーム酵素は小胞体、ゴルジ体を通過する際に糖鎖修飾を受け、さらにその糖鎖を認識する選別受容体により分泌経路からライソゾームに向かう輸送経路へと仕分けを受ける。哺乳動物における選別受容体CIMPRのショウジョウバエホモログとしてLERPが単離されている。本研究においてはLERPを恒常的にノックダウンしたハエS2培養細胞系を樹立し、LERP依存的に輸送される分子群を網羅的に同定することを試みた。LERP欠失細胞からは糖鎖修飾を受けたライソゾーム蛋白質が誤輸送され細胞外に分泌されていると考えられたため、培地中に分泌される蛋白質を解析したところ、LERP欠失細胞特異的に分泌される100kDaの糖タンパクとしてSaposin-related (Sapr)が同定された。Saprに対する抗体を作製すると同時に、ショウジョウバエ個体を用いたSaprノックダウン実験を行ったところ、脳神経系においてSaprを欠失した個体において神経細胞内のライソゾームに大量の自家蛍光物質が蓄積することが明らかとなった。Saposinは哺乳動物のライソゾームで働く蛋白質であり、その欠損はライソゾーム蓄積症候群を引き起こすことが知られている。上記の結果はSaprが種を越えてライソゾームで物質代謝に関わる因子として機能していること、更にショウジョウバエがヒトのライソゾーム蓄積症候群の良いモデル系になりうることを示唆している。
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