研究課題/領域番号 |
24570171
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
川嵜 敏祐 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (50025706)
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研究分担者 |
川嵜 伸子 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (70077676)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 単クローン抗体 / ヒトiPS 細胞 / ヒトES細胞 / R-10G / R-17F / 低硫酸化ケラタン硫酸 / ポドカリキシン / 糖脂質 |
研究概要 |
従来より用いられているヒトESやiPS細胞 のマーカー抗体の多くは糖鎖認識抗体である。すなわち、SSEA-3, SSEA-4のエピトープはグロボシリーズの糖脂質であり、TRA-1-60、TRA-1-81のエピトープはケラタン硫酸である。しかしながら、これら既存の抗体のほとんどがEC(embryonal carcinoma)細胞(胎児性がん細胞)を免疫原として得られたものであり、iPS/ES細胞にのみ特異的な抗体ではない。われわれはヒトiPS/ES細胞に対してより厳密な特異性を有する糖鎖認識抗体を作製することを目的として、ヒトiPS細胞 (Tic)を免疫原としてマウスに免疫し、30株のヒトiPS細胞結合活性をもつ抗体を産生するハイブリドーマを得た。しかしながら、これらの抗体のほとんどは、従来のマーカー抗体と同様にヒトEC細胞にも結合した。iPS/ES細胞とEC細胞は何れも多分化能を有する無限増殖細胞であり、EC細胞が、がん細胞であることを除けば、両者の区別は困難であることから、予想された結果であった。しかしながら、幸運にも、30株ハイブリドーマの内の2株(R-10GおよびR-17F)は、われわれの探していた、ヒトiPS/ES細胞に陽性でヒトEC細胞に陰性の抗体を産生していた。これらの抗体はヒト成体および胎児の組織を、わずかな例外を除いて、ほとんど染色せず、期待された通りの、ヒト多能性幹細胞を認識する新たなマーカー抗体であり、ヒトiPS胞上の糖鎖の役割を明らかにするための新しい分子プローブとして基礎および応用研究に広く利用されることが期待されている。また、R-10Gにより認識されるヒトiPS細胞上の抗原分子はケラタン硫酸修飾を受けたポドカリキシンであることが明らかにされている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.ヒトiPS細胞に発現するR-10Gエピトープとしてのケラタン硫酸の構造と機能の解析 R-10G抗体カラムを用いて、抗原タンパク質を精製し、次に、精製抗原タンパク質を、各種ケラタン硫酸分解酵素(ケラタナーゼ, ケラタナーゼΠ、エンド-β-ガラクトシダーゼなど)で分解し、分解物をポストカラム検出法を用いたイオンペア逆相 HPLCで分析した。その結果、ほとんどすべての分解物がGal-GlcNAc (6S) の2糖からなることが示され、R-10Gエピトープはガラクトース残基の硫酸化の度合いの低い低硫酸化ケラタン硫酸であることが明らかとなった。ケラタン硫酸を認識する抗体としては、5D4などが市販されているが、これらは高硫酸化ケラタン硫酸を認識する抗体でありiPS細胞には結合しない。 2.ヒトiPS細胞におけるR-10G抗原の細胞生物学的性質の解析 R-10Gにより免疫蛍光染色したiPS細胞の共焦点レーザー顕微鏡像をTRA-1-60、 TRA-1-81による染色像と比較したところ、R-10Gはほとんどすべての細胞に結合した。一方、TRA-1-60、TRA-1-8も同様にほとんどすべてのiPS細胞に結合した。しかし、R-10GとTRA-1-60あるいは R-10GとTRA-1-81の染色像をマージさせると、一部の細胞では両者のエピトープが同一場所あるいはごく近傍にほぼ等量存在するが、ほとんどの細胞ではどちらかのエピトープが優位に発現していた。一つのiPS細胞コロニーを構成する未分化状態の細胞群が多様な糖鎖抗原を発現していることには驚いたが、糖鎖が細胞表面の変化を鋭敏に察知するプローブであることを改めて実証したといえる。なお、これまでの研究成果は、すでに、国際的な専門誌、Glycobiology,23,322-336(2013)に発表されている。
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今後の研究の推進方策 |
1.ヒトiPS細胞がR-10G抗原を発現させる遺伝的背景を解析する ケラタン硫酸は、ガラクトースとN-アセチルグルコサミンの2糖の繰,り返し構造を基本骨格とするが、この基本糖鎖構造はウロン酸とアミノ糖の繰り返し構造を基本とする典型的なグリコサミノグリカンとは異なる。また、糖鎖とコアタンパク質との結合様式も、典型的なグリコサミノグリカンの特徴Gal-Gal-Xyl-O-Ser(The)とは異なり、N-結合型およびO-結合型という一般的な糖タンパク質糖鎖の特徴を併せ持つ分子である。ケラタン硫酸の基本構造の合成は5種類の遺伝子によりコードされる4種類の酵素活性、β4GalT、β3GnT、 GlcNAc6ST、KSGal6STによって触媒されることが知られている。これらの遺伝子のうち、GlcNAc6ST-1などすでにノックアウトマウスが得られているものを利用してケラタン硫酸生合成機構およびその調節機構、さらにR-10Gエピトープのタンパク質結合部位の構造および合成機構を明らかにしたい。 2.R-17Fハイブリドーマの産生する単クローン抗体のエピトープを解析する すでにクローニングが終了しているiPS細胞陽性/EC細胞陰性の単クロ-ン抗体であるR-17Fについて、これまでR-10Gについて行ったと同様の実験を行い、エピトープの生化学的諸性質を解明する。これまでの知見によるとR-17Fのエピト-プは糖脂質性であるが、従来のヒト未分化細胞の脂質性マーカーであるSSEA-3, SSEA-4とは異なる分子であることが確認されている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度3月末における次年度使用額として1,760,000円を計上した。この最大の理由は、交付申請当時、1,300,000円を計上していた物品費の大部分が支出されていないことによる。 本報告書の<研究実績の概要><現在までの達成度>に記すように、平成24年度において本研究課題は期待された以上の成果、実績を上げた。このために実質的に要した物品費、すなわち、細胞培養培地代、ヒトiPS細胞代、FACS試薬代、各種単クローン抗体代、プラスチック器具代などの総額は、交付申請当時の物品費予算額を上回っていたかもしれない。しかしながら、幸い、私達の研究室では当時、かなりの物品をストックとして保有していたこと、また、研究がスムースに進行し、試行錯誤的な実験を行う必要がなかったため、このような未使用額を計上することができた。この次年度使用額の大部分は、本研究課題の遂行に決定的な重要性を持つ支出項目である人件費として使用したいと考えている。 なお、平成25年度研究費として1,300,000円が予算化されている。この使用内訳については昨年4月17日に提出した交付申請書の記載に従って使用する予定である。
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