RNAは転写後にスプライシングや修飾などのプロセシングを経て成熟し機能を発揮する。転移RNA (tRNA) はタンパク質合成においてコドンとアミノ酸を結び付ける分子である。本研究では立体構造の安定化やコドン認識に関わるtRNAの硫黄修飾塩基の生合成機構の解明を目的とした。生合成系の異常は、疾病の発症にも関連している。生合成系は生物間での保存性が高く、本研究では好熱性細菌をモデル系とした。 横山茂之グループ(理化学研究所)が決定した好熱菌tRNA硫黄修飾酵素TtuAの構造をもとに、活性部位の3つの保存されたシステイン残基やATP結合部位と推定される部位について、変異体解析を共同研究により行った。高度好熱菌Thermus thermophilus菌体内の相補系を構築して解析し、ATP結合部位や3つのシステイン残基などがいずれも硫黄修飾反応に重要であることが明らかになった (Proteins誌に発表)。 迅速試験管内反応解析法を確立し、硫黄修飾反応について定量的に解析した。まず修飾酵素TtuAには補酵素が結合し、それが酵素活性に重要であることがわかった。共同研究により補酵素の種類と状態を分光法により決定し機能を推定した。また変異TtuAタンパク質を用いて、補酵素やATPの結合と硫黄転移反応に必要な残基を特定した。さらに32P標識ATP 等を用いた実験からtRNAが新規中間体を経て硫黄化されることが推定された。以上の結果と立体構造情報から新規な反応機構を提案した。反応に重要な残基が生物間で保存されており、共通のメカニズムであると考えられる。 さらに硫黄原子の転移に関与する一群の生合成因子の機能についても解析し、RNA硫黄修飾の一つの代表的な系の詳細をあきらかにした。他の硫黄化系との比較から、生体内の硫黄化合物の生合成機構に共通する原理を考察し、国際誌総説と日本語解説2報を発表した。
|