Bach2タンパク質は従来より精製タンパク質として調製することが著しく困難であった。本研究課題においてはこれまでに安定して調製可能なコンストラクトを検討し、331-520という領域で比較的良好に精製サンプルが調製できることを見出し、実験に用いている。この領域はプロテアーゼ限定分解の実験では何らかのドメイン様構造を有する部分ではないかと予想された。また、ヘム結合に重要であると考えられるCPモチーフを3か所含んでおり、実際、331-839という長い領域での結合実験の結果と非常によく似た結合パターンを示した。これはこの領域がヘムの結合において非常に重要であることを示していると考えられ、Bach2タンパク質の解析を進めるうえで有意義な領域であると思われる。この領域に注目して物理化学的解析を進める一方配列のインフォマティクス的解析を進めた。その結果、Bach2が通常の2次構造の組み合わせからなる立体構造を保持しないことが予想される一方、完全なランダムコイルから予想される性質にも合致しないことが理解された。SAXS測定によるヘムの有無でのクラツキープロットの相違は興味深いものであり、このタンパク質がわずかではあるが、ヘムの有無によって2次構造の誘起などとは異なる構造変化を示すことがわかった。現在のコンストラクトは広い意味で「天然変性タンパク質」と考えられるが、ヘムによる変化は天然変性タンパク質の間での状態変化だと考えることができる。このような変化は構造変化の連続性と多数のヘム結合を考える場合、タンパク機能のコントロールにおいて非常に興味深いと考えられる。
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