研究課題/領域番号 |
24570177
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
工藤 成史 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70308550)
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研究分担者 |
大澤 研二 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50203758)
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換(米国) |
研究概要 |
バクテリアが泳ぐのは、より良い環境に到達するためである。その推進機関であるべん毛モータが簡単に壊れるようでは、彼らの生存に関わる事態となる。したがって、べん毛モータの基本構造は十分な強度を持つ必要があり、構造タンパク質同士が強固に結びついて構造を形成する典型例となっている。本研究では、べん毛モータの機械的強度が低下した突然変異体を手がかりに、構造形成に寄与するタンパク質間相互作用の大きさと特徴を明らかにすることを目指している。また、これらの変異体モータの出力特性を測定することで、変異に伴う構成部品の構造変化がモータの内部抵抗に与える影響を評価し、その起源について変異部位に着目して調べていくことも目指している。 強度維持機構の解明を目指す研究の出発点として、1個ずつのべん毛モータの機械的強度を定量的に測定する系を開発した。すなわち、光学顕微鏡に一軸電動ステージと高速度カメラを搭載したべん毛モータの強度測定システムを構築した。これを用いて、野生型サルモネラ菌べん毛モータと、回転子タンパク質FliFの突然変異によって機械的強度が低下した変異型サルモネラ菌べん毛モータの強度測定を行った。その結果、変異型べん毛モータの強度は2.0 ± 1.0 pNであることが分かった。遊泳中にはべん毛が抜けず、高粘度なゼラチン溶液中ではべん毛が抜けてラージバンドルを形成する、というこれまでの報告と比較して、本研究で得られた値は妥当なものであると考えられる。一方、野生型モータの強度については、計測値の分布が変異型モータと明らかに異なることは示されたが、強度を決定することはできなかった。測定方法に改良を加えながら計測データをさらに蓄積することで、野生型モータについても定量的な強度測定が可能になると考えている。モータの出力特性に関しては、計画通り2年目から本格的に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、べん毛モータの機械的強度が低下した突然変異体を手がかりに、構造形成に寄与するタンパク質間相互作用の大きさと特徴を明らかにすることを目指している。初年度は、テザードセル法とビーズ法を用いて、モータ強度が低下した突然変異体SJW3060と復帰突然変異体のモータ強度を正確に測定する系の確立を目指した。並行して、変異体の遺伝的解析を進めることも目指した。 べん毛モータの機械的強度を調べるために、外部から引っ張り力を加える実験系を構築する段階はクリアできた。べん毛モータに引っ張り力を加えるために、実験の定量性と簡便性を考慮して、粘性力を利用した。まず、テザードセルの作製手順を改良した。次に、カバーグラスを移動させることで、周辺の水溶液を流動させて、テザードセルが離脱するまで流速を増大させられるようにした。そのときの流速から粘性力(べん毛モータに加わった力と等しい)を求めることができた。一方で、当初計画していたビーズを用いる方法は、付着力が大きくなったべん毛繊維(sticky filament)の変異を、モータ強度が低下した変異体に導入する段階までは進めることができたが、強度計測を行うところまでは進められなかった。当初プラスミド導入の確率を高めることができないなどの問題点が生じ、それらをクリアするのに、不慣れな実験であることもあって予想外の時間を要してしまった。 異常が起きた遺伝子を同定することにより、得られた株を分類する作業は、ほぼ予定通り進んでいる。野生型や変異体から脱落したべん毛の端を電子顕微鏡で観察したり、構成タンパクを同定したりすることで、どの部分が壊れたのかを調べる実験も予定通り着手できた。
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今後の研究の推進方策 |
変異体の機械的強度とモータ特性の測定、ならびに遺伝子解析をさらに進める。1年目に未達となった、ビーズを用いての機械的強度測定を最初に行う。初年度は測定方法を固めるための時間も必要であったため、実際に測定した変異体は1種類のみであった。これまでに単離した復帰変異体の数は50株ほどあるため、それらの解析を開始する。 これまでにSJW3060からの復帰突然変異体の新たな変異部位が、SJW3060でモータが壊れる部位であるロッドを構成するタンパク質FlgCとFlgFにあるものが見つかっている。その他に、トルク発生に関わるMotに変異が起こったものもあり、モータ各部の構造上の相互作用を解明する上で興味深い例となる可能性がある。たとえば、ロッドに変異のあるものでは、軸受(L-Pリング)との摩擦力が野生型とは異なっている可能性がある。このような変化は、モータの回転数-トルク特性に反映される。この特性を実験的に得るために、ビーズ法を利用する。様々な大きさのビーズをsticky filamentに付着させ、高速ビデオで回転状態を記録する。記録した画像を解析して回転数を求め、トルクを計算する。ビーズの大きさにより回転数が異なるので、回転数とモータの発生トルクの関係を得ることができる。得られた回転数-トルク特性と変異部位の関係を整理して、モータの内部抵抗に影響するタンパク質構造を特定していく。 以上の過程で、タンパク質間の相互作用(モータの構造、強度、出力特性)に特異な寄与をする可能性が見出された変異体に関しては、その変異タンパク質を精製して、構造や物理化学的な性質の解析を行う方向での研究も行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、当初予算の50万円と初年度残額の約18万円を当てる。初年度に残額が生じたのは、実験の一部がスケジュール通りに進まなかったのを取り戻すために時間を費やしたのと、東北大学と群馬大学双方のメンバーのスケジュールがマッチする日程を組むことができなかったために、相互に訪問しての打合せの時間を取れず、出張費の一部が未使用になったものである。直接訪問しての打合せの代替として、電話やメールでの打合せを必要に応じて行った。初年度中にべん毛モータの強度測定システムの装置部分の開発が完了したので、次年度の物品費は実験に必要な消耗品の購入費用である。消耗品の内容としては、ガラス・プラスチック類と試薬が殆どである。ガラス・プラスチック類は、バクテリアを観察したり、べん毛モータの強度測定を行ったりする際に必要となるスライドグラスとカバーグラス、菌を単離したり保存したりする際に使用するシャーレや、培養後に菌液を分離採集する際に使用するチューブ、種々の溶液をハンドリングする際に使用するマイクロピペットのチップなど、微生物実験を行う際に日常的に使用するものである。試薬類は、バクテリアの培養液や観察用溶液を作製する際に使用する薬品の他に、得られた変異体の変異部位を同定するのに使用するDNAシーケンサの反応試薬を含む。物品費の他には、研究の進展に合わせての学会発表と研究打合せのための旅費として、当初計画通り40万円を使用予定である。
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