研究課題/領域番号 |
24570177
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
工藤 成史 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70308550)
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研究分担者 |
大澤 研二 群馬大学, 理工学研究科, 教授 (50203758)
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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キーワード | バクテリア / べん毛モータ / モータ強度 / トルク特性 |
研究概要 |
複数の構造タンパク質が強固な構造を形成する典型例であるバクテリアのべん毛モータについて、その機械的強度を実験的に評価してきた。強度が低下した突然変異型のモータと、野生型のモータを比較することにより、構造タンパク質間の相互作用の大きさと、それを変化させる要因を明らかにする。また、機械的強度が低下したモータの出力特性が、野生型と異なっているかどうかについても調べることで、モータの強度維持に関わる構成部品が、モータのトルク発生にも影響を与えるかどうかを明らかにすることを目指してきた。 初年度には、べん毛モータに流体力を印加することで、1個ずつのモータの機械的強度を定量的に測定する系を開発した。それにより、機械的強度が低下した変異型サルモネラ菌べん毛モータの強度が、2.0 ± 1.0 pNであるとのデータが得られた。これを受けて、2年目には、モータの強度測定に加えて、モータの出力特性の測定を行った。結果として、モータ特性に関しては、機械的強度が低下した突然変異体と野生型のモータの間に、有意の差は見られなかった。このことは、べん毛モータの機械的強度を維持するための構造形成部位と、トルク発生部位の間に、機能的な相関はほとんど無く、互いに独立した機能部位として働いていることを示している。一方、突然変異体モータの機械的強度測定に関しては、実験系の改良によって、初年度に得られたデータの約2倍に当たる3.7 ± 1.6 pNという値が得られた。具体的な改良点は、モータに流体力を加える際にべん毛をスライドグラスに固定する方法として、初年度は抗べん毛抗体を用いたのに対し、次年度は遺伝子操作によりべん毛繊維の表面を改質したsticky filamentを用いたことである。最終年度である3年目は、以上のデータの妥当性を検証し、構造データとの比較などを行い、全体をまとめる作業に当たる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に、べん毛モータの機械的強度を調べるために、外部から引っ張り力として粘性力を加える実験系を構築した。べん毛がスライドグラスに付着した状態で菌体が回転するテザードセルを作製し、カバーグラスを移動させて周辺の水溶液を流動させ、テザードセルが離脱するまで流速を増大させた。セルが離脱したときの流速から粘性力(べん毛モータに加わった力)を求めることができた。得られたモータ強度は、野生型で約4 pN、モータ強度が低下した変異体で2pNだった。 2年目に、テザードセルを作製する方法を改良した。1年目には抗べん毛抗体を加えてべん毛をスライドグラスに固定したが、野生型モータを持つテザードセルが離脱する確率が高く、離脱する際の粘性力も変異体の2倍程度しかないため、抗体そのものがガラスから離脱する可能性が考えられた。そこで、べん毛がガラスに付着しやすくなるsticky filamentの変異を、野生型の菌と変異型の菌にそれぞれ導入した。Sticky filamentを用いたところ、モータ強度が低下した突然変異体のテザードセルを離脱させる力は、抗体を用いた場合の2倍程度の大きさになった。野生型のテザードセルは離脱する確率が小さくなり、我々の実験系で印加できる粘性力の上限、約20 pNよりも大きな強度を有する可能性が高いことが分かった。一方、SJW3060からの復帰突然変異体で、ロッドに変異のあるものでは軸受との摩擦力が野生型とは異なっている可能性が考えられたので、モータの回転数-トルク特性も測定した。特性を実験的に得るために、ビーズ法を利用した。様々な大きさのビーズをsticky filamentに付着させ、高速ビデオで回転状態を記録し、解析した。得られた回転数-トルク特性は、野生型と変異体間で有意差を示さず、今回調べた変異体では、予想したような変化は起こっていないことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたデータを精査し、モータ強度の定量的データとして確立する。また、機械的強度に関する結果を総合して、ロッド周辺のタンパク質間の構造構築に関わる相互作用を推定していき、構造形成に寄与するタンパク質間相互作用の特徴を明らかにする。モータの部分構造内でのユニットタンパク質同士の結合力や、部分構造間の結合力に関する情報は、タンパク質が強固な構造を形成するメカニズムを理解するための基礎となる。変異部位の配置に着目しながら、それらが機械的強度維持にどのような役割を果たしているかを明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。 平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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