研究課題/領域番号 |
24570178
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
和沢 鉄一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究支援者 (80359851)
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キーワード | 周波数領域蛍光測定 / 蛍光異方性 / 回転相関時間 / 蛍光寿命 / アクチン / rhodamine 6G / LN光変調器 / 水和 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は,タンパク質分子周囲の水和層の局所粘性の経時変化を計測する手法の確立である.タンパク質水和層の局所粘性の情報は,時間分解蛍光偏光法によるタンパク質に係留させた蛍光プローブ回転運動性測定によって得る.今年度は,時間分解蛍光異方性測定の高精度化,リンカー長の異なるチオール反応性蛍光色素群の合成,そしてモデル物質に係留した蛍光色素における時間分解蛍光異方性測定を実施した. 前年度に構築した周波数領域蛍光偏光測定システムを改変することにより,変調蛍光異方性の測定精度の改善を図った.前年度に構築した蛍光測定システムの励起光光学系において,励起光の平均強度と強度変調をモニターする機構を導入し,励起光の情報を基にして試料の蛍光シグナルに補正を行うことによって,各種のドリフトを相殺することができるようになった.さらに,試料の温度調節機構の導入の併用によって,定常蛍光異方性および変調蛍光異方性の測定において,0.001以下の高い精度を実現した. 時間分解蛍光異方性測定のモデル物質として,蛍光色素Rhodamine 6G (R6G)で標識したαシクロデキストリンを合成した.本研究の測定システムを用いて,水中のR6G標識αデキストリンについての測定を20℃で行った.本研究で開発した解析プログラムにより,時間分解蛍光異方性は,2つの減衰成分で記述でき,速い成分および遅い成分の時定数はそれぞれ,0.3ナノ秒と1.3ナノ秒であった.速い成分はR6G自体の回転,そして遅い成分は蛍光性αデキストリン全体の回転と予想される. 今年度の研究成果により,時間分解蛍光異方性を高精度に測定することが可能な周波数領域蛍光測定システムの構築を達成した.さらに,この測定システムおよび解析プログラムを用いることにより,時間分解蛍光異方性減衰が多成分となる実験系における回転相関時間の成分解析を可能にした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の具体的目標は,(1) 蛋白質周囲の水和層粘性の経時変化を,時間分解蛍光偏光測定を使って調べる手法を確立すること,そして(2)アクトミオシンの時間分解蛍光偏光測定を行うことによって,アクトミオシンの水和層の局所粘性とその時間変化について知見を得ることである.本研究では,現在までに実施し達成した項目は以下の通りである:[1]周波数領域蛍光法を測定原理として,時間分解蛍光異方性を測定可能な測定装置の開発を行った.[2]当該周波数領域蛍光測定装置において,ロックインアンプ上の位相検波検出によって光検出器の出力から変調振幅と変調位相を測定する機構を製作した.[3]変調励起光をモニターする光学系の導入や,測定試料の温度調節,そして蛍光測定装置内の光学素子の配置等に工夫を凝らすことによって,変調蛍光振幅および変調蛍光位相測定の高精度化を達成した.[4]周波数領域蛍光測定データから蛍光寿命および回転相関時間を解析するためのプログラムを開発した.[5]蛋白質の特異的なサイトにリンカーを介して蛍光プローブを係留するために,長さの異なるPEGリンカーを有するRhodamine 6Gマレイミド誘導体の合成を行った.[6]モデルホスト分子としてのαデキストリンに係留したRhodamin 6Gの時間分解蛍光異方性測定を行い,その回転相関時間の成分分析に成功した. なお,時間分解蛍光において,時間分解異方性測定を精度良く行い,回転相関時間の成分分析をすることは,蛍光寿命測定と比較して非常に難しい課題であることが分かった.それゆえ,今年度中に,周波数領域蛍光の経時変化測定に着手することができなかった.しかし,それ以外の点では,交付申請書で記述した目標以上の達成をしていると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的および平成25年度までの達成事項を勘案することにより,平成26年度の研究実施目標は以下のようにする:(1)本研究で開発した周波数領域蛍光偏光測定装置に経時変化測定を行う機構を導入する,(2)蛍光標識アクチンおよびアクトミオシン系における周波数領域蛍光偏光の定常状態測定を行う,(3)これらの係留された蛍光色素の時間分解蛍光異方性データより色素の回転ブラウン運動と色素の微環境の局所粘性情報を得る方法論を確立する,そして(4)蛍光標識アクチンおよびアクトミオシン系における周波数領域蛍光偏光の経時変化測定を行うことにより蛋白質の動作に伴うその周囲の局所粘性変化を調べる.以上の実施項目と平成25年度までの研究達成事項により,高精度な周波数領域蛍光偏光測定技術の確立,周波数領域蛍光偏光測定による色素の回転相関時間の経時変化測定法の確立,動作時の蛋白質周囲の局所粘性変化の解明を主たる成果とする本研究の目標の達成を目指す予定である.
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