研究課題/領域番号 |
24570181
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
槇 亙介 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30361570)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フォールディング / 蛋白質 / 構造形成 |
研究概要 |
本研究の目標は、球状蛋白質のフォールディングエネルギー地形を、実験の立場から定量的に記述し、蛋白質が特異的な天然立体構造を獲得する仕組みを理解することである。この目標を達成するために、蛋白質フォールディングに伴う自由エネルギー変化を種々の構造パラメータによって記述することによって、フォールディングのエネルギー地形を自由エネルギーと構造アンサンブルとの関係として描く。 平成24年度は、モデル蛋白質スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)について、二つのドメインのそれぞれにドナー・アクセプターを持つ変異体一種類と、β-バレルドメイン内にドナー・アクセプターを持つ変異体二種類とを作成した。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と連続フロー法およびストップト・フロー法を組み合わせることによって、これらの変異体のフォールディング/アンフォールディング反応に伴うエネルギー移動効率を、様々な尿素濃度において反応開始後約30マイクロ秒から10秒に至るまで観測した。フォールディング反応開始後100マイクロ秒程度で蓄積する初期中間体において、β-バレルドメイン内のドナー・アクセプター間距離はほぼ天然の値に近づいたが、二つのドメイン間にまたがるドナー・アクセプター間距離が天然の値になったのは、反応の律速段階においてであった。この結果は、SNaseの二つのドメイン(β-バレルドメインとα-ヘリカルドメイン)のうち、β-バレルドメインはフォールディングの極めて初期に天然様構造を獲得する一方、α-ヘリカルドメインは、フォールディングの律速段階においてはじめてβ-バレルドメインに付加することにより、天然構造を形成することを示しており、SNaseの構造形成の非一様性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、研究実施計画のうち、蛍光ラベルを導入したスタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)変異体をデザインおよび作成し、その分光学的性質および熱力学的性質を評価した。さらに、蛍光連続フロー法およびストップト・フロー法を駆使して、これらの蛍光ラベル変異体のフォールディング・アンフォールディング速度論を評価した。研究遂行に際して、米国ペンシルバニア州・フォックスチェイス癌センターのHeinrich Roder教授と共同研究を展開した。蛍光ラベル変異体のドナーおよびアクセプターの導入部位を、これまでの研究に基づき選択したため、安定性およびフォールディングへの影響は殆どなかった。連続フロー法を用いた測定は、このため、フォールディング反応に伴い過渡的に蓄積する各中間体について、ドナー・アクセプター間距離を評価することができた。これらの成果は、学会発表はもとより、論文として現在投稿中である。蛍光寿命測定は準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果に基づき、更に研究を発展させる。 1. 平成24年度に引き続き、必要な蛋白質試料の調整を行う。これまで行ってきた調整方法で、充分量の試料を得ることができたので、調整方法に見直しはしない。 2. 平成24年度に作成した変異体は、三箇所のドナー・アクセプター部位について、六種類のみである。これらの変異体を用いた研究によって、SNaseが構造形成に際して、二つのドメインのうち一方のドメインにおいてフォールディング初期に顕著な構造形成を示すことが明らかになっただけでなく、二つのドメインの結合がフォールディングの律速段階において起こることも明らかになった。より高い分解能で構造形成を追跡するために、さらに多くの部位について変異体をデザイン、作成する。 3. 円二色性(CD)による中間体の二次構造要素の特徴付け:平衡条件下で蓄積するほどけた状態、平衡論的中間体、天然状態についてその二次構造含量を評価する。(アン)フォールディング速度論の評価をも目指す。 4. 蛍光寿命測定用の連続フロー装置の開発の継続。装置開発に伴い、装置の時間分解能、不感時間を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度と同様、研究遂行に必要な試薬、光学部品等の消耗品、調査研究のための旅費、研究成果を論文としてまとめるための外国語論文校閲および研究成果投稿料として研究費を使用する予定である。蛍光寿命測定に関わる準備に伴い、デジタルオシロスコープを購入する予定である。
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