研究課題
本研究の目標は、球状蛋白質のフォールディングエネルギー地形を、実験の立場から定量的に記述し、蛋白質が特異的な天然立体構造を獲得する仕組みを理解することである。この目標を達成するために、蛋白質フォールディングに伴う自由エネルギー変化を種々の構造パラメータによって記述することによって、フォールディングのエネルギー地形を自由エネルギーと構造アンサンブルとの関係として描く。これまでに、蛍光共鳴エネルギー移動と各種速度論的手法とを組み合わせることによって、モデル蛋白質スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)の構造形成が、非一様に起こること、即ち、この蛋白質の二つのドメインのうち、β-バレルドメインはフォールディング反応初期中間体において天然様構造を獲得する一方、もう一つのα-ヘリカルドメインの天然構造は、反応の律速段階において獲得されることが示唆された。この成果は、国際雑誌Protein Scienceに出版した。平成25年度は、もうひとつのモデル蛋白質ウマアポミオグロビン(hapoMb)について、幾つかの異なる条件下で蓄積する平衡論的中間体の特徴を、速度論的なふるまいを比較することによって調べた。これまでの研究において、速度論の立場からhapoMbの尿素存在下で蓄積する平衡論的中間体とフォールディング中間体とが同一であることを明らかにした。酸変性についても同様の検討を行った。穏和な酸変性条件(pH ~ 4)において蓄積する平衡論的中間体についても、天然状態に至る過程で蓄積するフォールディング中間体との同一性が、速度論の立場から示唆された。この結果は、マッコウクジラapoMbに関して水素重水素交換NMR法を用いて得られた二つの中間体の構造的な類似と整合する。さらに、各種の塩存在下の酸変性条件下で蓄積する中間体についても、同様の検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度までに得られた成果を国際雑誌Protein Scienceに出版した。スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)と同様、フォールディング研究のモデル蛋白質として用いられてきたアポミオグロビン(ウマ由来:hapoMb)の中間体の性質に焦点を当てた。hapoMbは、グロビンフォールドを持つ典型的なα-型蛋白質であり、α+β型蛋白質であるSNaseとの対比は興味深い。SNaseに加えて、hapoMbについてフォールディング反応機構および中間体の性質を明らかにすることは、本研究の幅を広げるものであり、これは作成した蛍光連続フロー装置を駆使することによってはじめて可能になったことである。これらの成果は、学会発表はもとより、論文として投稿準備中である。蛍光寿命測定は準備中である。
平成25年度の成果に基づき、更に研究を発展させる。1. 平成25年度に引き続き、必要な蛋白質試料の調整を行う。調整方法は、平成24年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書・平成24年度の研究実施計画の「1.蛋白質資料の作成」の通りである。2. 平成25年度はhapoMbの研究に注力したため、蛍光ラベル変異体を作成していない。これまでに作成した変異体で用いた三箇所のドナー・アクセプター部位以外に、プローブを追加する必要性を含めて検討し、さらに高分解能で構造形成を観測するために必要であればさらに変異体を作成する。3. 円二色性(CD)による中間体の二次構造要素の特徴付け:平衡条件下で蓄積するほどけた状態、平衡論的中間体、天然状態についてその二次構造含量を評価する。(アン)フォールディング速度論の評価をも目指す。4. 蛍光寿命測定用の連続フロー装置の開発の継続。装置開発に伴い、装置の時間分解能、不感時間を評価する。
消耗品の必要量が、予想よりも少なかったためではあるが、進捗には影響がない。平成24年度、平成25年度と同様の使用を予定している。研究遂行に必要な試薬、光学部品等の消耗品、調査研究のための旅費、研究成果を論文としてまとめるための外国語論文校閲および研究成果投稿料として研究費を使用する予定である。
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Protein Science
巻: 22 ページ: 1336-1348
10.1002/pro.2320