本研究の目標は、球状蛋白質のフォールディングエネルギー地形を、実験の立場から定量的に記述し、蛋白質が特異的な天然立体構造を獲得するしくみを理解することである。この目標を達成するために、蛋白質フォールディングに伴う自由エネルギー変化を種々の構造パラメータを用いて記述することによって、フォールディングのエネルギー地形を自由エネルギーと構造アンサンブルとの関係として描く。平成24年度には、蛍光共鳴エネルギー移動と各種速度論的手法とを組み合わせることによって、スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)の構造形成が、非一様に起こることを示唆する結果を得た。この成果は、国際雑誌Protein Scienceに出版した。 平成25年度は、もうひとつのモデル蛋白質ウマアポミオグロビン(hapoMb)について、いくつかの条件下で蓄積する平衡論的中間体の特徴を、速度論的なふるまいを比較することによって調べた。速度論の立場から、hapoMbの尿素存在下で蓄積する平衡論的中間体とフォールディング中間体とについて、それらの形成過程が同一であることを明らかにした。この成果は、国際雑誌PLOS ONEに出版した。 平成26-27年度は、hapoMbについて、酸および塩によるフォールディング・アンフォールディングについて調べた。これまで蛋白質の酸変性機構を説明するために独立に用いられてきたMonod-Wyman-Changeux(MWC)モデルとLinderstrom-Lang smeared charge(LL)モデルとの両方をマクロな系で再現するモデルを開発することを目指した。この成果の一部は、既に国際雑誌に投稿済みであり、修正中である。
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